研究概要 |
第1に,学生テスト調査を22年度に引き続き行った。23年度版問題冊子を4種類作成,30分~40分の解答時間,受験者は22大学2174名。22年度の約57%増である。また,数学への好悪観を自由記述で具体的に調べることを主目的とした質問紙を開発し同時調査を行った。テスト問題の傾向は,22年度と異なり,概念的知識記憶や単純な手続き的知識の定着を調べる問題を全体の1/3程度含めた。諸事情で実施時期が4月~9月に及び,また,当初予想より2倍程度の受験者数となったので,処理に一定の遅れが出ている。第2に,22年度テスト結果の分析を幾つかの学会で発表した。基本的統計量と項目反応理論2母数モデルにより能力値を算出し,受験者を能力値でクラスに分割して各クラスの学力を調べる事を基本としている。入学方法別,学部別による分析からは一定の興味ある観察ができる。また,クラスによる学力格差が甚大なものであることが明らかになった。分析には,項目識別力や正答確率の実測値を活用している。さらに質問紙調査の分析とテスト結果による能力値をクロスし,学力と態度の関係について得た結果を一部口頭発表した。第3に,数学コンピテンシーの概念枠組研究の準備を進めている。本研究は高大接続点における「数学コンピテンシー」を調査するが,国内的には先行研究がほとんど無い。国際的にも十分ではない。国内では学校教育を含めて「数学コンピテンシー」への注目自体が未熟である。従って数学コンピテンシーに関する概念枠組の構成をテスト結果の分析と同時並行的に進めねばならない。23年度においてはICME12(23年度7月,於ソウル)での発表準備としてこれを進めた。3つの数学コンピテンシー(具体的文脈での数学使用力,数学的思考力,数学コミュニケーション力)を提唱する共に,本テスト結果から主に数学思考力に焦点を合わせ,その内容を具体的に提案する準備を進めている。コミュニケーション力の一部である「説明する力」も本テストでは少数の問題ながら測定し,測定法の開発が進んだと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年にわたるテスト調査を行い,対象者は合計3500名を越えた。質的調査については,学生インタビュー調査の結果を踏まえた質問紙調査による数学学習に関する態度を主とした調査に切り替え,2000名を越える調査を行った。出題した問題の評価に関する概念的な枠組とそれに基づく問題評価につき,やや時間がかかったが,一応の結論を得てまとめに入っている。国際会議(ICME-12)での口頭発表も予定している。
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今後の研究の推進方策 |
データの最終整理,エラーチェックを行い,論文を作成する。論文は,(1)テスト・データのまとめと,誤差解析等の統計処理の結果をまとめた報告,(2)テストの概念枠組の設定と各問題の評価を詳述したもの,(3)質問紙調査の結果と分析,(4)学生の学力に関しての仮説のまとめ,についてそれぞれ執筆する必要があろう。これらをまとめ,最終的な報告会を2013年3月に開催する予定である。前後して,データを極力公開する予定である。
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