研究概要 |
本研究の目的は,一般に普及している画像入出力家電を実験装置・計測機器として転用し,学校教育等における科学実験の可能性を広げる新たな実験法を開発することである.平成23年度は,全体計画中の主に「(2)スモールスケール比色実験における高精度デジタル計測」に取り組んだ.具体的な内容と成果は以下のとおりである. 1.マイクロプレート上で一連の溶液の混合を行い,それぞれの溶液の比色分析を行う種々のスモールスケール実験について,デジタルカメラを検出器に用いてデジタル計測する方法を検討した.初めにマイクロプレート上の溶液を高精度に測定するための測定条件を検討し,最適条件を決定した.その後,以下のような実験に応用した.〈金属錯体の組成決定:連続変化法〉では,鉄-フェナントロリン錯体を取り上げ検討した結果,分光光度計で測定した場合と変わらないほど正確に錯体組成を決定することが可能になった.〈天然水の硬度測定〉では,パックテスト試薬を用いての比色実験により簡便で正確な測定が可能となった.実試料に応用し良好な結果を得た.〈天然水のpH測定〉では,万能pH指示薬を調整しその色の変化をRGB値で解析する方法を検討した.その結果,RGBの3色の値の変化を用いて,pHメーターで測定した値とほぼ一致するpHを求めることが可能になった.天然水に応用し良好な結果を得た. 2.インクジェットプリンターとスキャナーの活用による実験法について検討した.その結果,この手法はインクカートリッジに試薬を詰める作業に難点があることが分かった. 以上,23年度は特にマイクロプレートとデジタルカメラを組み合わせて,スモールスケール比色実験を簡便・高精度に実施する方法を開発した.本法は特別な機器を用いない簡便な方法であり,学校現場でも十分に実践が可能な方法である.また新規性が高くかつ今後のスモールスケール実験の進展に重要な意義をもつ手法である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,画像入出力家電を実験装置・計測機器(分光検出器)として転用し,学校教育等における科学実験の可能性を広げる新たな実験法を開発することを目的として,具体的には次の2つの課題を計画していた.(1)発光現象を利用した水質分析,(2)スモールスケール比色実験における高精度デジタル計測である.これに対し,22年度は課題(1)に取り組み,大変良好な成果を上げることができた.23年度は(2)に取り組んだ.インクジェットプリンターの手法は難点があることが分かったが,マイクロプレートとデジタルカメラを用いた手法では多様な実験で良好な結果を得ることができた.よって,本研究は全体として順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は順調に進展している.今後はこれまでに確立した測定法を元にして,さらに高度な測定に挑戦したいと考えている.22年度に検討した(1)発光現象を利用した水質分析では,当初の計画に基づいて天然水中のNa^+,Ca^<2+>を分析対象とし大変良好な成果を得た.その際に現在のデジタルカメラの機器性能を考えれば,さらに微量な成分への応用も十分に期待できると考えられた.そこでさらに微量な成分への応用を検討し,本法の可能性を広げたい.さらに光吸収を対象とした手法では,23年度の研究の中でRGB値の組み合わせによる高度な分析法の可能性を見出したため,その発想を具体的な分析法を開発することによって形として示したい.今後は以上のように本研究の目的にそって,本法の可能性を広げる発展的な課題に当たりたいと考えている.
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