全盲学生の微生物学教育は触図教材を用いた触察技法により一段と進歩した。フォトグラフィーを応用した触図により、常在微生物の発育集落、グラム染色後の形態観察、走査型電子顕微鏡による表面構造の形状も理解できるようになった。弱視学生にも拡大版や白黒反転技法での拡大図で、視覚障害特性に合わせた教材を開発している。医療分野を専攻する全盲学生や弱視学生にとって、微生物学教育は、将来医療従事者として実践で活躍するときや、教員として教育に携わる場合にも十分に役立つこととなる。 今年度は各種消毒薬に対する黄色ブドウ球菌や大腸菌の超薄切片像を透過型電子顕微鏡レベルで観察し、形態や内部構造の変化を触図教材で理解させた。消毒用エチルアルコール処置後の黄色ブドウ球菌では未処置に比較して、細胞壁の損傷と膨潤が見られた。ヒビスコール処置後では細胞壁の外側に内容物の流出が顕著に見られた。大腸菌では消毒用エチルアルコール処置後には細胞壁の損傷と細胞質の変性が顕著に見られた。ヒビスコール処置後では細胞壁の伸長により、細胞壁の外側に内容物の流出と細胞破壊像が観察された。これらの肉眼所見をフォトグラフィーを応用した触図教材により、未処置の細菌形態を十分に理解させたうえで、消毒薬処置後の変化がみられた透過型電子顕微鏡標本を触察で判別できた。 今回、超薄切片像での消毒薬処置後の細菌細胞内の微細構造とその形態変化を触察で認識できるようになったことは、微生物学教育を進める上で有効な手段であった。従来からの発育集落、グラム染色形態、走査型顕微鏡での形状と関連づけることで、一段と微生物の認識が高まり、資質の向上につながるものと考えられる。視覚障害学生に系統立てて微生物学教育を習得させることは、将来医療従事者として感染予防を実践する上で、重要な教育となることが証明された。
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