研究概要 |
エネルギー・環境教育用の教材として,従来のものより安価で取扱いが容易な太陽電池作製キットを開発することを目的とし,無置換のチオフェンの電解重合によって形成されるポリチオフェンをベースとした有機薄膜太陽電池を作製し,その光電変換特性を評価した.無置換のポリチオフェンは不溶不融の固体であるため,スピンコートなどの成膜法は適用できない.よって,重合と同時にフィルム形成し,そのまま有機薄膜太陽電池の活性層として利用できなければならない.これを実現するために,ホール輸送層をコートしたITO透明電極を用い,その上にポリチオフェンを厚さ数100nmのフィルムとして電解重合形成した.この際,電解重合条件を詳細に検討した結果,数ミリ秒の電圧パルスを繰返し印加するマルチステップ電解重合によって作製したポリチオフェンフィルムが最も均一かつポーラスなモルフォロジーを有していることがわかった.このようにして形成したポーラスなポリチオフェンフィルム上にフラーレンC60溶液を滴下し,フィルム内に溶液を浸透させた後,スピンコートすることによりアクセプター層を形成した.この上にアルミニウムを真空蒸着することにより電解重合ポリチオフェンをベースとした有機薄膜太陽電池を作製した.作製した太陽電池の性能評価は,キセノンランプに銀ミラーと溶液フィルターを組み合わせた手製のソーラーシミュレーターによって行った.その結果,電解重合ポリチオフェンを用いた有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率は最も高いもので0.98%となり,ほぼ1%に近い値を達成した.このエネルギー変換効率の値は,現在市販されているいくつかの色素増感度型太陽電池キットを上回っており,教材用としては充分な値である.ただし,太陽電池の大きさが2~4mm角と小さいため,外部モーターを回転させる等の用途に用いるためには,20倍以上の大面積化が必要である.
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