高度IT人材育成を目的とする様々な取り組みの関連を明確化するために,本研究では大学や大学院における情報専門教育の成果とIT人材に対する産業界の要求を,共通の知識体系を用いて具体化し,それらを収集・分析する情報システムcresieを開発した.cresieを運用して具体的な要求データおよび達成度データを収集し,相互に比較・分析した.さらに,情報処理学会の情報専門教育カリキュラム標準J07と情報処理技術者試験のいくつかの試験区分における要求レベル分析を行った.本研究を通じて得られた主な知見は以下の通りである. (1) 情報系専門能力に対する重要度は産業界の要求全体の60~65%である.一方,社会人基礎力やコミュニケーション能力の重要度は要求全体の30~35%を占める.重要度の高い30項目により50%程度の重要度がカバーされる.(2) 情報系専門能力に対する産業界の要求は,調査項目,回答者の年齢,大学時代の専門分野,企業内での立場,取り組んでいるプロジェクトなどにより様々である.(3) 社会人基礎力の育成に関する教育機関の対応は,「教育していない」「積極的に教育している」に二極化している.(4) 学部卒業者の自己評価は,教育機関の自己評価よりも低い傾向にある.一方,大学院修了者は,教育機関の評価よりも高い自己評価になることもある.(5) J07・CS領域は理論重視と認識されているが,プログラミングやソフトウェア工学分野の重要度はカリキュラム全体の25%を占めており,意外に大きい.(6) 情報処理技術者試験・ITパスポート試験はレベル1の知識を主に要求しており,非ITスキルの重要度が高い.(7) 情報処理技術者試験・基本情報技術者試験はレベル2,応用情報技術者試験はレベル4の知識・スキルを主に要求しているが,重要度分布はJ07・IS領域と類似している.
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