本研究は、理工系大学生向けの技術者倫理教育を、社会的認知能力の形成という側面を重視した学士にふさわしい人格形成教育として再構築することを目指したものである。情報系の学部4年生必修講義の実践を通じたアクションリサーチとして、1.学生が技術者倫理に対してどのような態度を有し、その態度は講義を通じてどのように形成され変容するかを学生が記述したテキストから分析し、2.得られた発見事項から、学生の技術者倫理に対する態度や役割意識といった社会心理的性向について、概念化・理論化を図るとともに、3.学士課程にふさわしい技術者倫理教育の1つの実践モデルを提示することを目指している。 平成24年度は、第1に、23年度に引き続き、技術者倫理の講義実践で得られた知見をベースに、学生のミニエッセイとレポートの記述データの質的分析に取り組むとともに、具体的には二者択一のディベート形式によるミニエッセイの中から、社会的態度の形成において強いジレンマを克服しなければならない事例に着目し、倫理的ジレンマを乗り越えるために学生がどのように社会的態度を構築しているかを分析した。学生が示した様々な態度の成分分析や、それらを組み合わせたより高次な態度形成についての分析を行った。 第2に、23年度に構築した社会的態度変容理論と組織的知識創造理論を融合させた新たな枠組み(知識共創フォーラム2011にて萌芽論文賞受賞)に基づいて、本年度までの研究成果を改めて俯瞰し、より発展的なテーマ「科学技術と社会的責任」という観点から理論的に捉え直す作業に取り組んだ。 以上の研究成果を論文としてまとめ、国際会議でのポスター発表2件、書籍執筆の準備等を行うことができた。
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