環境教育において、環境倫理はもっとも重要なテーマの一つである。今年度は昨年度から引き続いて、環境倫理について考えるきっかけとなる野外観察の設計とその可能性について実験的な観察会をもとに検討した。フィールドとしたのは福岡県の求菩提山で、かつて修験道の山として知られた山である。この山の自然と修験道場の遺構が作る景観には、多くの人が畏敬の念とともに高い価値を直感的に感じることができる。環境問題を解決するにあたって、自然への価値について「手段的な価値」から「内在的な価値」への転換が生じることが基礎的な問題となるという指摘があるが、求菩提山の景観に内在的価値を感じる体験は、この問題をさらに深く考えるきっかけになることが示唆された。 最終年度である今年度は、地球科学と考古学領域の野外観察が環境教育に寄与するメカニズムと意義について検討・整理した。その結果、以下のようにまとめることができた。 地球科学と考古学の野外観察によって、参加者は現代が歴史の一断面であることに気づくことができる。この気づきが、参加者が現代の自然と人間の関わり方の問題を改めて考える端緒となり、さらに未来の環境についても考えなければいけないという気づきに導く。この思考の深まりの過程において、自然と人間の関係を考えるとともに、未来を考える力を参加者に与える点で環境教育に寄与すると考えられる。また、これらの領域の野外観察は、しばしば参加者に深い感動を与えることがあり、その際に得られた気づきはその感動と結びついて参加者の心の深くに残る可能性が指摘され、この点が地球科学と考古学の野外観察による環境教育のアドバンテージであると考えられる。
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