原子力・放射線は、その利益と不利益が比較的明確に認識可能であり、政策等を含めて国民ひとりひとりが熟慮するためにも、科学的側面と社会的側面が相伴って階層的に認知されていくことが望まれる科学技術のひとつである。しかし、これまで情報量や与えられた情報の理解容易性に依存して,社会的側面理解が先行していたのに対し、科学的側面に関しては、原子力・放射線の科学知識リテラシーの養成は遅れていた。一方で、平成23年3月に発生した福島第一原発事故の影響で、国民は原子力・放射線に関する科学的認知が飛躍的に上昇した。例えば、ベクレル、シーベルトなどの単位を多くの国民が知り、線量計等の放射線計測器が頒布された。本研究課題では、従来の専門家が作成する原子力・放射線教材とは異なり、小中高校生等が自ら作成する教育単位ごとの原子力・放射線教材の開発プログラムを開発し、小中高等学校および生涯教育の教材として供し、原子力・放射線の科学的理解につなげることを目的とした。この目的のために、本年度は対象をこれまでの小中高校生に保護者も加え、原子力・放射線学習の単位を個人から家庭へと拡大した。その結果、これまで中学生や高校生が作成した教材に、保護者の異なった視点が加わり、児童・生徒のための学習教材から、生涯教育教材へと展開が可能と為った。これらについては横浜市および福岡市で原子力・放射線教育を実践した。本年度は、これら教育実践への参加希望者が、本活動を始めて16年になるが初めて400名を超えて、大きな関心を得ていることが明らかとなった。また、本年度は、これらの教材を用いて、福島県内でも老人クラブや小学校PTAで原子力・放射線学習を展開し、本研究課題の社会的意義を確認できた。更には、ASEANの若者たちへの原子力・放射線学習も福島県天栄村で行い、今後の海外展開の端緒を開くことができた。
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