本研究では、北方先住民族住居であるチセを用いた実践的教育プログラムの開発を目的としている。平成22年度は、本格的に実物大の復元住居の建設に取りかかる前に縮尺の異なる建築模型を作成し、その構造的特徴を把握するとともに、教育普及用の教材キットとしての可能性について模擬授業を通じて確認作業を行なった。作成した模型は1/5のサイズが1種類、1/10のサイズが2種類である。1/5サイズの模型製作では、地元企業の協力のもと民有林にて自然木を採取、木の皮を剥ぐところから作業を進め、壁や屋根の材料となる茅も近郊から集め、極力既製材料に頼らない復元作業を試みた。模擬授業は1/10サイズのキットを用い、本校学生を対象に行った。アンケート結果からは、楽しみながらチセを理解するという役割はある程度果たしたものの、作成に1時間程を要し、平成23年度予定の小中学生を対象とした授業用としては、なお課題が残ることが明らかとなった。 また、本研究ではチセからはじまる北海道の暖房史を伝える教育プログラムの開発を検討している。平成22年度は、その準備段階として、チセの温熱環境の推定を行う解析モデルを作成し、数値解析を行った。 解析結果からチセの室内環境は、空気温としては現代の住宅より非常に寒いが、放射環境を含めて考えれば、その非常に寒い期間は長期にはわたらなかったことが分かった。但し、厳しい環境であることに変わりはなく、生活する上での工夫がたくさんあったと考えられる。実際のチセをみた人によれば、地下を持ったチセがあったり、ふとんに様々な工夫をして夜間の温度維持をしていたりしていたようである。それらの工夫は、次世代に「環境とそこから生まれた工夫」として伝えていく必要があるとともに、囲炉裏から暖炉、暖炉からストーブという暖房設備の開発の歴史は寒冷地特有の技術史であり、こちらも次世代に伝えていくためのアイデアが必要である。
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