研究課題/領域番号 |
22500872
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研究機関 | 釧路工業高等専門学校 |
研究代表者 |
西澤 岳夫 釧路工業高等専門学校, 建築学科, 准教授 (00300509)
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研究分担者 |
森 太郎 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70312387)
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キーワード | 北方先住民族(アイヌ) / 住居(チセ) / 教育プログラム / 教材キット / 数値解析 / 放射環境 |
研究概要 |
本研究では、北方先住民族住居であるチセを用いた実践的教育プログラムの開発を目的としている。平成23年度は、実物大のチセを建設するとともに、昨年開発した木製教材キットに改良を加えた上で、小中学生を対象としたものづくり教室、「こども開放プラン」に活用した。ともに自ら手を動かし考えながら建設工程を実体験する事ができ、本研究を遂行するうえでの重要な役割を果たしたものと考えられる。その他、実物大のチセには宿泊体験を兼ね環境測定を行い、チセの温熱環境の解析を行った。 チセの建設作業は建設機械など一切使わず、教員と学生の手仕事のみで行い、概算で延べ164人工を要した。建設したチセの構造規模は木造平家建てで寄棟造り。6畳程度の矩形平面となっている。内部は間仕切りのない一室空間で直天井、中央に囲炉裏を設けた。 教育普及用に作成した教材キットは昨年度の反省を踏まえ1/20サイズのものを開発。部材数を減らし、予め接合部の受けなどを加工、写真やイラストを豊富に挿入した解説書等を加えた。「こども開放プラン」(2011/12/17)実施後に行ったアンケート結果では8割以上が「つくりやすかった」、模型造りについては全員が「楽しかった」との回答があり、教材キットとしての可能性を示すことができた。 厳冬期(2012/1/19)に宿泊体験を実施した。その際の外気温は最高気温で-2℃、最低気温で-16℃であった。囲炉裏で薪を燃焼させることにより空間上部の温度は外気温に比べ20℃程度上昇したが、居住域の温度は薪の燃焼空気が外気の流入を引き起こすため、外気温とほとんど変わらない非常に厳しい環境となった。薪の燃焼量、空間の平均温度から推算するとチセの熱損失係数は582W/Kと非常に大きく、そのほとんどが囲炉裏の燃焼による外気流入が原因ということが分かった。以上を鑑みると道東地域においてチセによって生存に必要な環境を得ることは非常に難しく、他に様々な生活上の工夫があったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を遂行する上で、最も重要であるとともに多くの労力を必要とするチセの建設が無事完了したことがあげられる。その他、予定していた宿泊体験を兼ねた環境測定・数値解析ができたこと、また教材キットを用いた小中学生を対象としたものづくり教室を開講し、その評価がある程度できたことによる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年実施した小中学生を対象としたものづくり教室を、アンケート結果などを踏まえ、キットの改良、解説書の改訂やオリエンテーションの改善等により、より親しみやすく分かりやすいものへと充実させる。モデルキットの改良は6月から7月までの2ヵ月間で行い、8月上旬~中旬を目処に本年度のものづくり教室、「こども開放プラン」を実施する。なお、ものづくり教室では昨年度完成したウェブページデータ(7月以降公開予定)を用い、理解のしやすさをねらう。また、昨年度完成したチセについては、冬越えたこともあるため必要とされる箇所に補修を施しつつ、5月から12月にかけて扉の仕様変更(外壁と同じ仕様とする)や外壁の壁厚をあつくする等、断熱性能をあげることを目指す。宿泊体験をかねた環境測定は秋と冬の2回を予定。昨年度までの成果は日本建築学会北海道支部研究発表会(6月30日~7月1日)で公表することになっている。年度末には3ヵ年の成果・活動報告を行うとともに、本プログラムをテーマとしたシンポジウムを開催予定。
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