研究概要 |
職人の高齢化と後継者不足により個人に特化した技術・技能の直接的な伝承が困難となった背景より,マルチメディアを活用したデータベース化により伝統技能の保存と継承を可能にすることが目的である.木造の漁船を対象とし,製作過程の記録文書,写真,動画のデータベース化を行うとともに,新しいメディアの活用による技能保存の可能性を検証するため,当該年度は以下のことを行った. 技能の動作を保存するためにモーションキャプチャシステムを用いて,木工作業において加工を施す職人の動きの保存を試みた.木材の加工の中でも難易度が高い鉋掛けのモーションを対象とし,その動作に慣れた作業者と初心者の動作を記録し,アニメーションを作成した.実際の現場では観察が不可能な方向からキャプチャ動画を観察した結果より,作業の熟練度の違いが分析できることが明らかになった. また,手や指先等の細かい動きを再現するための指先のボーンモデルを自作し,人体用ボーンモデルに組み込み,体全体の動作に加え,より細かい指先の動きまでを同時に再現した.この手法は,対象としている船大工の作業以外にも広範囲に利用できる方法であり,技能・技術の伝承に非常に有効である. 一方,動作の観察のみからでは分からない作業時の力の入れ方,勢いのつけ方などの記録も必要であることが判った-.こで,筋電位信号を計測した.その結果,熟練者と初心者では力の入れ方の違いに起因して筋電位信号に差が表れることが明らかになった.この違いを利用して,作業時の筋電位を計測することにより,動作状態を観測し矯正する可能性を検討しており,これが発展すれば各種動作の訓練に応用できる.さらに,両者の右肩,肘,手首などにワイヤレスモーションセンサを装着し,各部3軸方向の加速度,角速度,方位を測定することで上記と同様の情報をより簡便に得ることの検討を始めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
動作保存メディア活用による技能習得の可能性の検証,および3次元CADによる製作工程の表現とCAEによる評価までを終了する予定であったが,後者に対しては十分に実施できていない.これはモーションキャプチャによる動作保存の可能性を検証した結果,動作のみでは情報が不十分であることが明らかになったことにより,加速度センサ,筋電信号の活用により力のかけ具合や速度変化などのデータ収集に集中したためである.
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今後の研究の推進方策 |
モーションキャプチャおよび加速度センサによる動作状態の保存を行い,これらによる技能習得の可能性を検証する.また,構築したデータベースを活用し,未経験者を被験者にしてメディアのみでの技能習得を検証する.船大工の技能である鋸引き,鉋掛け,ノミ打ち,ハギアワセ等の作業を行い,技能習得の評価を行う.技能習熟度の評価には前述のモーションキャプチャや加速度センサを用いた動作解析の利用のほかに筋電位信号の活用も予定している.これにより,技能者の動きや筋電位の変化などを,被継承者のそれと比較することにより,技能の伝承の評価を行うことを試みる.また,3次元CADによる製作工程の表現とCAEによる評価を行う.
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