研究課題/領域番号 |
22500959
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤垣 裕子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (50222261)
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キーワード | 科学者の社会的責任 / 科学コミュニケーション / 科学技術倫理 / 想定 |
研究概要 |
本研究課題の目的は、科学者の社会的責任の現代的課題について、責任論と科学コミュニケーション論の接点にあたる課題を中心に、事例分析をもとに分析をすすめることである。科学者の社会的責任の現代的課題は、(1)科学者共同体内部を律する責任(Responsible Conduct of Research)、(2)製造物責任(Responsible Products)、(3)市民の問いかけへの呼応責任(Response Ability)の3つにわけることができるが、科学者の社会的責任と科学コミュニケーションの重なりあう領域においては、この枠組みの1つには留まらない問いが喚起される。本研究ではこのような領域における事例分析をすすめ、科学者の社会的責任の現代的課題を考察する。平成22年度は、「責任」をめぐる定義の分析をおこない、科学技術倫理事典(C.Mitcham編、トムソン社、2005)をもとに、責任概念を、法的責任、宗教における責任、哲学における責任、科学の責任、技術の責任に分けて論じ、さらにアングロアメリカンにおける責任概念と、ドイツにおける責任概念の違いを検討した。本年度は、1)現場の科学者の「責任」をめぐる定義の分析、2)事例分析の2つを行った。1)現場の科学者にとって現在「科学的責任」がどのように捉えられているのかを分析するために、ユネスコのICSU(International Council for Science:国際科学カウンシル)における「科学研究遂行における自由と責任に関する委員会」のレポートを分析し、実際にICSUに参加して、その議論の展開を観察した。2)日本事例の分析日本事例分析のなかで「システムとしての責任」の考察を先にすすめなくてはならないものを選んで、検討をすすめる。とくに、東日本大震災発生後、放射能の測定や健康影響評価をめぐる科学コミュニケーションと専門家の責任をめぐる問題、および「想定外」の事故をめぐる責任の問題、「想定」の功罪と専門家の責任、など、今、まさに生起している課題における科学者の社会的責任についての分析をすすめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の交付申請書の研究計画欄で、1)現場の科学者にとって現在「科学的責任」がどのように捉えられているのかを分析するために、ユネスコのICSU(International Council for Science:国際科学カウンシル)における責任を観察すること、2)社会的的責任論の応用問題としての東日本大震災を分析すること、を挙げた。1)2)ともに計画とおり研究をすすめることができ、特に2)については米国における三学会合同会議のプレナリセッションでの招待コメンテータ、および日本物理学会での招待講演をすることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は最終年度に入るため、平成22年度におこなったこと(科学技術倫理事典(C.Mitcham編、トムソン社、2005)をもとにした責任概念の整理)と平成23年度におこなったこと(ICSUにおける科学者の国際状況の調査と東日本大震災への応用)をともに利用して、「現代の科学者の社会的責任」という形での統合した結果をまとめたいと考えている。
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