現在の海上保安庁海洋情報部の倉庫に未整理で残された資料は、日本水路協会の協力のもとに、文書類についてはほぼ整理が終わり、文書一覧が作成された。機器類の調査と履歴簿の作成が残されているが、今回の調査によって、戦前から戦後まもなくの時代における日本の海岸測量の実態を明らかにできる多くの資料が確認できた。本研究の中心課題である「編暦業務」については、残念ながら体系的な資料保存がなされていないことが判明した。しかしこれまでは文献学的にしか存在が知られてこなかった「航空暦」や「高度方位暦」を発見することができた。 今回の調査で最も大きな成果は、戦時中に開発されたことが水路部の記録にありながら、現物の存在が知られていなかった「高度方位暦」が、海洋情報部の原備倉庫にあることが確認できたことである。高度方位暦は基地別に太陽・月・惑星・恒星の高度と方位をそれぞれ20分間隔で掲載した天測暦で、航空天測用に開発されたことは知られていたが、まさにサイパン、トッラク、ラバウルといった基地別に掲載されていた。夏休みに山梨県立科学館で複製を展示し、ワークショップを開催したことで、毎日新聞や朝日新聞などに取り上げられた。 旧海軍水路部による「航空暦」の編纂は、水路部の資料に依れば世界に先駆けて行われたことが知られてきたが、海軍の資料調査から、必ずしもそうではなぐ、海軍の交流のなかでドイツやアメリカに学んだものであったことなど、軍との関係がかなり色濃いことが確認できた。今後、水路部の歴史を解明する上で、どのような資料調査が必要なのか、その基本的な知見を得ることができた。
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