本年度は、これまでの研究成果を以て、練馬区立石神井ふるさと文化館の展示「江戸時代の百科事始-本草学者小野蘭山の世界-」の監修および講演「小野蘭山の本草学-実地調査と各地の門人たちからの情報-」を行った。また伺様に武田科学振興財団杏雨書屋で開催された「小野蘭山展」に関連して「小野蘭山の本草学と天産物の情報収集と題して講演を行った。この記録は、同財団の雑誌『杏雨』15号に掲載予定(校正済)。さらに岐阜県各務原市の内藤記念くすり博物館で開催予定の小野蘭山関連展示「江戸のくすりハンター 小野蘭山~採薬を重視した本草学者がめざしたもの~」に協力者として参画した。 上記に逆行して「小野蘭山書簡集」(『小野蘭山』2010年八坂書房発行)に収録した書簡は本文のみだったので、注を付して理解しやすいものへと作業を進めている。作業のなかで、蘭山が江戸に出るまでほとんど京都を離れなかったので、全国の天産物の分布や方言を収集できたのは、地方にいる門人たちの書簡によった点が読み取れている。 これまで収集した史料を精査するなかで、これまで知られていなかった著書1点を発見した。また上野益三以来能登在住の村松標左衛門が、京都の衆芳軒で蘭山の講義に列座して学んだとされてきたが、これは誤りで、標左衛門は直接蘭山の講義を受けたのではなく、通信教育によったことを明らかにした。 今後、蘭山が意識していたか否かは別として、漢字文化圏のなかでの自然誌をいかに構築していったかという課題に取り組んでいくつもりである。
|