最近、ビールーニーの『占星術教程』のアラビア語版がアラブ諸国で2種類出版されていたことがわかった。ひとつは2003年にシリアのダマスクスで出版されたものであり、もうひとつは2004年にヨルダンのイルビドで出版されたものである。ともに、1934年にR.R.Wrightがペルシア語版からの英語訳に付したアラビア語写本(British Library Or.8347)のファクシミリ版だけに基づいたものであり、複数の写本を用いた批判的な校訂版ではない。イルビド版はダマスクス版を参照しておらず、写本によって読めない箇所はそれぞれが独自に解釈してテキストを訂正している。本研究にとってこれらの版はある程度参考にはなるが、決して全面的に信頼を置けるものでないことも確かである。すでにそのような箇所が複数確認できている。しかし、最近になって相次いでこの著作がアラブ諸国で出版されたということは、現代においてもこの著作の重要性が失われていないことの証でもあると言える。したがって、複数の写本に基づいた批判的な校訂版の出版がいっそう意味を持ってくると思われる。 2010年に新たに入手した写本のコピーは、ラバトのモロッコ国立図書館所蔵のものである。この写本はインドのアリガル写本とランプル写本に近いことがわかった。現在手元にある写本資料の系統関係について言えば、Berlin 5666、British Library 8349、Paris BN 2497の3写本、テヘランのSipahsalar 665とMajlis 162の2写本、そしてAligarh 1722、Rampur 4197、Rabat 2323の3写本がそれぞれ同系統であることがわかった。
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