1. 文献研究の成果:2011年にカトマンズの古文書館で『ヤヴァナジャータカ』の新たな写本を発見した。これはPingree教授が校訂本を出版したときには知られていなかったものであり、教授が判読不能としていた部分の読解に大きな手がかりを与えるものであることがわかった。とくに教授の校訂本の奥書の部分を今回新たに入手した写本の写真と比較して再検討した結果、この書の散文テキストが西暦269年に韻文化されたという解釈は誤りであることが判明した。散文訳を西暦150年ごろとすることにも十分な根拠がなく、「事物数」の用例も見られないことが明らかになった。 2. 現地調査の成果:(1) ケララ州での調査。2010年に北部のコジコーデ、2011年に中部のトリシュール、2012年に南部のトリヴァンドラムで占星術師にインタビューし、貝殻を用いる計算法が生きていることを確認し、記録した。(2) 2011年カトマンズでの調査。ネパールでは2008年に革命が起こり、王制が廃止されたが、かつての「王宮占星術師」の役割を新政府で果たしているのは、科学アカデミーの中にある「暦法委員会」の委員長であることがわかった。現委員長のドゥンゲル氏に面会し、貴重な情報を得た。ネパールで刊行されている伝統暦はインドの古典天文学書『スールヤ・シッダーンタ』に基づいているが、日月食の計算のためには現代天文学を用いている。(3) 2010年聖地ティルマラで「ヒンドゥー・ダルマ指導者会議」が招集した「伝統暦の数学」というテーマの全国大会に出席。インド人の価値観を長い間支配してきた『マヌ法典』などに規定されている祭式などの伝統行事の日付をめぐって、伝統的な暦法に現代天文学をいかに取り入れるかという問題について激論があったが、簡単に解決できる問題ではないことを改めて認識した。(4) 2012年トリヴァンドラムの写本図書館で調査。
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