本年度は、理学・工学の諸分野での、コンピュータの導入による科学方法論の変化について、Michael Mahoneyのagenda概念を用いて考察を進めた。この成果については、これまでの国際学会等での発表内容と合わせて、シミュレーションの歴史と哲学についての書籍の形で、まとめることになった。 またその考察の過程において、日本の国立大学に設置された共同利用機関である計算機センターにおいて、初期にどのような科学計算が行われ、それぞれの分野においてコンピュータの必要性が、当時どのように語られていたかの記録を資料化することの重要性が再認識された。大型計算機センターは、1964年4月の日本学術会議による勧告により設置が促されたものであるが、その設置の必要性に関して欧米の研究機関との「計算機ギャップ」による研究の立ち後れへの懸念が挙げられていた。こうした研究者の声は、例えば1965年から最初の共同利用施設として大型計算機センターを運営した、東京大学でとりまとめられた広報にその一部が残されている。 そこで、本研究費で改良を進めてきた歴史的資料の整理を行うツールにより、東京大学大型計算機センターを利用していた研究者の研究課題の一覧を、同センター広報に載せられた研究課題、および成果報告よりデータ化した。このデータベースについては、研究成果の一部としてウェブ上に公開し、他の研究者の利用にも供することにした。 さらに日本の初期の科学計算のありようと、研究分野の方法論の変化および情報学分野の発展過程への影響について、主にアメリカの事例と比較した。この内容については、国際学会等で発表する予定である。
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