ローマ帝国時代のモニュメントが多数存在しているハンガリーにおいて朱の産地同定を行うことによって、ローマ帝国時代の朱の流通を考察することを目的に研究を行っている。 本年度はハンガリー国立博物館、ハンガリー地質調査所を訪問し、改めて協力を要請したところ快く引き受けてもらえた。その結果、ハンガリー国内および周辺に辰砂鉱山が存在していること、および分析用にその鉱石を分与してもらえた。その数は28におよび、現在硫黄同位体比を分析中である。また、ハンガリー国立博物館にある赤色顔料塗布モニュメントから顔料部分の採取も許可されたが、朱かベンガラかの分析は行われていないことから次年度にハンディ蛍光X線装置を日本より持参し、分析を行ったのちに採取することとした。硫黄同位体比分析とともに産地同定に用いるべく水銀同位体分析手法の確立を目指している。水銀同位体分析方法の確立および精度管理を実施するにあたり、内部標準試料として世界最大級の水銀鉱床であるスペイン・アルマデン鉱山産の辰砂鉱石を用いて、前処理法を含めた水銀同位体分析法を確立させた。^<198>Hg、^<199>Hg、^<200>Hg、^<201>Hg、^<202>Hg、そして^<204>Hgを還元気化・マルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析装置で測定した。得られた測定値(n=5)から水銀δ値を算出した場合に、δ^<202>Hgは0.02±0.07‰(2σ)を示した。得られた標準偏差値は、自然界の水銀同位体比変動値よりも極めて小さいために、高精度な辰砂鉱石の水銀同位体分析方法が確立された事を示す。またヨーロッパにおける主要な水銀鉱山であるアルマデン辰砂の水銀同位体比に関する知見を得た。
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