研究課題/領域番号 |
22500977
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
南 武志 近畿大学, 理工学部, 教授 (00295784)
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研究分担者 |
武内 章記 国立環境研究所, 環境計測研究センター, 研究員 (10469744)
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キーワード | 考古学 / 遺跡朱 / ハンガリー / 辰砂鉱山 / 硫黄同位体 / 水銀同位体 / 産地同定 |
研究概要 |
ローマ帝国時代のモニュメントが多数存在しているハンガリーにおいて朱の産地同定を行うことによって、ローマ帝国時代の朱の流通を考察することを目的に研究を行っている。昨年度はハンガリー地質調査所から辰砂鉱山鉱石を分与してもらったが、ハンガリー国立博物館の赤色顔料は朱かベンガラか不明だったのでモニュメントから採取しなかった。今年度は、携帯用蛍光X線測定装置を日本から持参し、ハンガリー国立博物館の壁画やモザイク画の石片など49サンプルで元素組成を分析した。その結果、2サンプルの赤色顔料から水銀を検出したので朱と判断した。他の大部分は鉄を多く含むことから、ベンガラと考えられた。一方、文字を刻みこんだ石柱2サンプルの赤色顔料からは多量の鉛を検出した。これらは鉛丹(四三酸化鉛)の可能性がある。三種類の赤色顔料を使い分けた理由も興味があり、博物館職員との共同研究が広がっている。博物館責任者より採取を許可されたので赤色顔料を採取し、現在硫黄同位体比を分析中である。また、ハンガリー地質調査所から新たに辰砂鉱石の供与を受けた。今回までに供与された鉱石は、イタリア1鉱山、ウクライナ2鉱山、オーストリア3鉱山、クロアチア1鉱山、スペイン1鉱山、スロバキア8鉱山、スロベニア1鉱山、セルビア1鉱山、トルコ1鉱山、ハンガリー7鉱山、ルーマニア3鉱山のヨーロッパ29鉱山の38サンプルにのぼる。この中でもスペインアルマーデン鉱山の朱は+7.32±0.91%δ^<34>Sを示し、他の鉱山鉱石と異なり安定した数値であり、かつ大きくプラスのδ値が示された。加えて、鉱石と遺跡の朱の水銀同位体分析手法が今年度確立できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉱山鉱石サンプルはほとんど収集できて現在測定中であることから、順調に進展していると考えている。ただ、遺跡に用いられた赤色顔料がほとんどベンガラ(酸化鉄)であったことから、朱を用いた遺跡出土資料がまだ2サンプルしか収集できていないことが、少し不満なところである。また、東日本大震災の影響で水銀同位体分析に用いるマルチコレクターICP-MSの保守点検に時間がかかり、分析手法の確立はできたが実試料の測定に遅れが生じた。今後、ルーチン的に測定していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
ヨーロッパの主な辰砂(朱)鉱山より鉱石を採取できたと考えている。遅れている水銀同位体分析を辰砂鉱石で行い、硫黄同位体比と比較しながら遺跡出土朱の産地同定に用いていく。遺跡朱の収集は、携帯型蛍光X線測定装置を持参して行う。さらに年度末までに硫黄同位体比分析と水銀同位体比分析を用いた遺跡出土朱の産地同定を終了し、発表を行う。
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