本研究は、さまざまな古代ガラス・釉薬の材質とその物性に着目して、古代ガラス・釉薬の製造技術や加工方法について検証する事を目的とする。 今年度は、遺跡出土遺物(製品・未製品・道具類)に対して加工方法に関する観察調査、材質・物性調査をおこなった。製作技法については、顕微鏡観察および高精細画像の獲得が可能であるIP(イメージングプレート)を用いた透過X線撮影(CR法)、微小部X線回折分析を実施し、陶器の沈線部に充填された粘土の特徴から、成形・装飾・焼成についての知見を得ることができた。 ガラスの材質・物性調査は、出土ガラスと化学組成の類似するガラス参考(標準)試料を製作し、転移温度、屈伏点、融点、除冷温度などの測定をおこなった。これらの測定では、現象が高温かつ不均一の場で進行するため、少量のサンプリング調査が可能な場合であっても、複数回の実験は難しい。そこで蛍光X線分析による成果を活用し参考試料を製作することにより、遺物からのサンプリングを避け、実験に要するサンプル量に関わる問題を回避している。 7世紀から8世紀の出土鉛釉陶器にいては、蛍光X線分析により胎土と釉薬の化学組成、X線回折分析から推定焼成温度を調査し、さらに釉薬の鉛同位体比分析も実施し、遺物の所属時期により鉛原料推定産地が異なることがわかった。また国内産原材料を使用している資料もさらに分類が可能であるなど、鉛釉陶器の化学的な特徴と産地についての手がかりを示すことができた。
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