研究の目的は、古代鉛ガラスおよび鉛釉陶器生産に関する技術的変遷を明らかにすることである。今年度は、最終年度のため、前年度からの継続調査とともに、収集したデータの総括を行った。今年度新たに調査対象としたものは、緑釉陶器の生産地遺跡出土遺物として、東海地域の比較的初期資料と考えらる熊ノ前窯跡出土緑釉陶器片、近江地域の資料として滋賀県内の窯跡出土資料について調査を実施した。生産地以外の遺跡出土資料については、弥生時代中期中葉~奈良時代に属する9遺跡に対して調査を実施した。今年度は特に、奈良三彩初現期の資料と施釉瓦について、技術的な共通点があるのかどうかという点に着目した。調査にあたっては、実見、透過光を用いた顕微鏡によるガラス・釉層および胎土の観察、透過X線撮影による構造調査を事前におこなった。さらにガラス・釉薬と胎土に対して微小部蛍光X線分析法により化学組成を明らかにし、胎土についてはX線回折法により焼成温度の推定をおこなった。鉛釉の原料である鉛の産地推定は、鉛同位体比分析をおこなった。初現期にあたる資料の中には、製作技術の点から舶載品の可能性が考えられる資料を含んでいた。分析の結果、日本産の鉛原料が使用されていることが確認でき、鉛原料は他の初現期と考えられる資料と供給元が同じ可能性が高いことがわかった。施釉瓦では、平城京の出土地域による胎土の化学組成の相違を検出している。釉薬の鉛同位体比分析結果から、奈良三彩資料と鉛原料の供給元は、今回の資料では2点の瓦資料を除き同じである可能性が高いことがわかった。これらは釉薬と、瓦と奈良三彩の胎土の製作工人の相違を示唆するため、奈良三彩、施釉瓦の生産体制を考えるうえで重要な知見となる。
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