研究概要 |
本研究は,過去に地球規模での気候変化などに伴って地形が生成され,現在において人為による環境の維持が強度に行われている青森県岩木川下流の十三湖および岩木川デルタを例に,完新世以降の地形環境変遷,および人為のインパクトによって生じた地形変化を定量的に把握し,両者を比較検討するものである.湖沼の長期のタイムスケールでの環境変化を復元するためには,地形学・地質学手法を用いた研究が不可欠である.本研究では,過去の十三湖を埋積して発達する岩木川デルタの堆積物および堆積構造を検討し,完新世中期以降の湖水環境変化を検討することを試みる.これまで,著者は,調査地域のデルタ最下流部において深度約60mの学術ボーリングを実施し,過去約1万年間の湖水環境変化に関する検討を行ってきた.平成22年度予算では,上流側において新たな学術ボーリングを実施することでコアを採取,その試料について,層相観察,C-14年代測定,粒度分析,珪藻分析を実施した. その結果,本調査地域のデルタ構成層は,(1)下位から沖積層基底礫層,下部砂層,中部泥層,上部砂層,上部泥層に区分され,日本の他の地域で明らかにされてきたものとほぼ同様の堆積構造であること,(2)下部砂層および中部泥層で示される縄文海進は現在のデルタ最下流部から上流部まで急速に進行したこと,(3)上部砂層で示されるデルタ堆積物は上流側で古く下流側で新しく,その前進速度は5m/年というスピードで行われたこと,(4)現在,汽水湖であった十三湖は,完新世中期においては比較的長期間(約3千年間)に表層が淡水化していたこと,(5)現在と同様の汽水環境になったのは約千年前であること,が明らかになった.
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