本研究は、人口流動に注目しつつ現代中国の大都市の空間構造とその変容過程を実証的に解明することを目的とする。今年度は、沿海部の各大都市・地域を訪問し、現状の理解、資料の収集、現地研究者との意見交換に努めた。 青島市では、青島農業大学の大島一二教授をはじめとした複数の研究者とお会いし、近年の中国経済のグローバルな展開やそれにともなう人口流動の状況について意見交換を行った。また、青島市とその周辺に立地しかつグローバルな視野で展開する複数の企業を訪問し、労働力の需給状況などについて新たな知見を得ることができた。北京では、北京大学政治管理学院の李国平教授や中国科学院地理科学・資源研究所の張文忠研究員(教授)にお会いし、最近の中国における地理学的な研究の動向や共同研究の可能性などについて意見交換を行った。 安徽省は農民工いわゆる出稼ぎ農民を上海や蘇南地方を含む長江デルタ地域へ大量に排出してきた地域であるが、皮肉なことに合肥市郊外の小井庄はそれ以前の農業生産責任制をいち早く導入した村として知られている。現地に赴いて責任制導入の経緯、出稼ぎを含む非農業への転換、その一方での農業用地の流動化などについて聞き取り調査等を行った。南京では、南京大学地理学系の曹栄林教授とお会いし、地域-都市-集落システムをめぐり、ミクロスケールの分析とマクロスケールの考察との接合が必要であるとの結論に至った。上海でも、華東師範大学地理学系の谷人旭副学院長や上海師範大学旅遊学院の王承雲教授と意見交換をし、上海をフィールドにした人口移動に関する研究の手法が主な話題になった。香港では、香港中文大学内にある中国研究サービスセンターを中心に、研究対象となる中国各地の都市形成や人口流動に関する諸資料の収集に努めた。
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