マレーシア国気象局より入手した北ボルネオのレーダー・データについて品質管理をおこなった.30分ごとのボリューム・スキャン・データから3次元反射強度データを作成した.次に,10分ごとの長距離探査データから降水ピクセルの出現頻度の統計値を作成した.1978年12月に実施された国際冬季モンスーン観測実験(Winter Monsoon Experiment)におけるビンツルのレーダー観測結果と比較するため,2005年から2009年の冬季(12月から2月)における降水活動の日変化統計値を作成した.陸上と海上の降水域面積の日変化パターンは,陸上は日中に降水域面積のピークが出現し夜間には降水域は少なく,一方海上では真夜中に降水域面積のピークが観測された.この結果は1978年の観測結果と同様であったが,夜間に沿岸から沖合にむけて降水帯が遠ざかってゆくという現象は,個別の事例では認められたが,統計値としては現れなかった. マレーシア国サラワク州灌漑排水局より入手した降水データを用いて,サラワク州における豪雨の出現特性を調べた.1999年から2009年の11年分の日雨量データによる統計によると,日降水量が50mmを超えた日数は,サラワク州南東部のクチン付近とブルネイとの国境付近ででは約30日であり,シブ付近では約15日であった.日降水量が100mmを超えた日数はクチン付近とブルネイとの国境付近で2~3日であった.日降水量が50mmを超えた日は南シナ海を北東風が卓越する12月から2月に多く観測された.特に激しい豪雨事例として「1日で100mmを超える降水を4地点以上で同時に観測された日」を選択し,大気下層の循環場の特徴を調べた.その結果,1)南シナ海を吹く北東風が陸上に吹き込む場合,2)南シナ海に「Borneo Vortex」が存在する場合,に激しい豪雨が発現することがわかった.
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