研究課題/領域番号 |
22500996
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大島 浩子 金沢大学, がん進展制御研究所, 助教 (80362515)
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キーワード | 胃がん / 大腸がん / SOX17 / 悪性化 / Wnt |
研究概要 |
Wntシグナルは腸管上皮幹細胞の維持に重要であり、APC遺伝子変異などによる恒常的なWntシグナル亢進は大腸がん発生の原因となる。一方でSox17にはWntシグナルを阻害する作用があり、がん抑制遺伝子として報告されている。研究代表者はこれまでに腫瘍発生初期過程ではSox17がWntシグナル標的遺伝子として発現誘導されていることを明らかにした。本研究では、Sox17が消化器がん発生および悪性化にどのような機序により関与しているのかを明らかにすることを目的として実施している。これまでに、腸管上皮細胞で特異的にSox17を欠損するマウス、villin-Cre/Sox17(flox/flox)を交配により作製した。昨年度までにこの遺伝子型のマウスは出生率が低いことを観察していたが、villin-Creが胎性初期に一過性に全身で発現する個体があり、それが原因と考えられた。一方、正常に生まれたvillin-Cre/Sox17(flox/flox)マウスは正常であり、腸管粘膜にも組織学的な異常は認められなかった。一方、Apc遺伝子をヘテロで欠損したApc^<Δ716>マウスでは腸管上皮の構造は正常だが、体細胞における正常Apc遺伝子の欠損(LOH)によりWntシグナルが活性化して腫瘍が発生する。興味深いことにApc^<Δ716>/villin-Cre/Sox17(flox/flox)マウスを作製して15週齢で解析すると、大腸粘膜全体の厚さが約1.7倍に肥厚し、大腸ポリープの数が平均で約7倍程度に増加した。小腸での粘膜の厚さや腫瘍発生頻度には変化が見られなかった。以上の結果から、Apc遺伝子のヘテロ変異によりWntシグナル強度が少し上昇した大腸粘膜上皮では、Sox17遺伝子欠損によりさらにWnt活性が上昇して、上記の症状を呈した可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの交配実験は研究計画に沿って進められている。当初予想したSox17遺伝子欠損による腫瘍の悪性化症状は認められなかったが、Wntシグナル亢進とSox17抑制の相互作用による腫瘍発生機序を示唆する、新しい知見が得られており、Sox17による発がん・悪性化機序の解明という本研究の目的に向かって、順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
Sox17遺伝子を時間的にもコンディショナルに欠損させるため、あらたにvillin-CreERT2/Sox17(flox/flox)および、Apc^<Δ716>/villin-CreERT2/Sox17(flox/flox)マウスを作製し、粘膜上皮増殖と腫瘍形成過程におけるSox17遺伝子欠損の影響を経時的に解析する。また、Apc遺伝子ヘテロ変異とSox17遺伝子欠損による粘膜肥厚および腫瘍数増加の機序について、Wntシグナル活性強度の変動の観点から解析を進める。
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