DNA損傷はDNA変異の原因となるため、損傷の生成しやすい遺伝子や損傷の修復されにくい遺伝子は、変異もしやすいと考えられる。したがって、各種細胞におけるゲノム内でのDNA損傷の分布動態を知ることは、それぞれのがんに固有の発生経路を明らかにするうえで極めて重要である。しかしながら、ゲノム部位間での損傷頻度の違いを網羅的に評価するための技術は、現状確立されたものはない。申請者らはすでに、損傷DNAを認識する抗体を使用した免疫沈降法(略称:DnaIP)により試料ゲノムから損傷部位を選択的に収集する技術を開発し、その検証結果を報告している。本申請研究では、ChIP-Chip法(クロマチン免疫沈降の産物を、ゲノムアレイにより網羅的に解析する方法)にならってDnaIP-Chipを施行し、DNA免疫沈降産物の完全なゲノムマッピングを目指した。 本研究課題は、鉄ニトリロ三酢酸誘発げっ歯類発がんモデルの標的細胞について数種の酸化的DNA損傷に対する免疫沈降を施行し、それらのゲノム内分布の決定を行うものである。 正常時および鉄ニトリロ三酢酸腹腔内投与後3時間(酸化ストレス亢進時)のマウス腎組織を採取し、ゲノムDNAを抽出した。8-オキソグアニンおよびアクロレイン修飾アデニンに対する抗体を使用して、DNA免疫沈降を実施した。免疫沈降の実験系の改良を行い、標的のDNA損傷に対してより特異性の高いゲノムライブラリーを得ることに成功した。現在、ゲノムアレイによる損傷分布解析を施行中である。
|