DNA損傷応答と細胞老化は、腫瘍の悪性化に強く拮抗するメカニズムである。pRbの欠損が生じると、がん抑制遺伝子の消失による細胞増殖亢進に拮抗する防御機構(がん抑制遺伝子欠損により誘導される老化[TLIS]と呼ばれる)が働き、N-Ras、ATM、ATR、p53、γH2AX、Chk1、Chk2、Suv39h1、HP1γ、p161NK4a、p19Arf、p21といったDNA損傷応答や老化に関わる多くのタンパク質の発現や活性化が誘導され、ヒストンメチル化(H3K9me3)の亢進が起こる。我々は最近、Rb+/-;ATM+/-およびRb+/-;ATM-/-マウスが平均6.5か月以内に悪性甲状腺C細胞腫を発症することや、ATMが介在するDNA損傷応答がTLISに必要であると同時に、クロマチンリモデリングやDNAメチルトランスフェラーゼDNMT1の制御を通じた広範なエピジェネティックな変化をコントロールしていることを発見した。ATMは、Rb依存的に、アセチル化により誘導されるDNMT1のユビキチン化を制御することにより、DNMT1の発現量をコントロールできることが明らかになった。エピジェネティックな遺伝子発現制御に関わる分子は、がん治療を考える上で有望な標的となってきており、マイクロアレイおよびメチローム配列解析をおこなうことにより、Rb-ATM-DNMT1エピジェネティックスイッチの下流にある分子を同定し、がん治療の新たな標的の特定が可能になると期待できる。
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