がん抑制遺伝子RBは多くのクロマチン修飾因子と結合し、その機能を制御することにより標的遺伝子の発現をエピジェネティックに制御している。しかしながら、このRBの機能は生物学的にも臨床学的にも十分に解明されていない。このようなRBによるエピジェネティック制御機能を解明するために、我々は甲状腺C細胞腫瘍を生じるRB欠損モデルマウスとヒト原発がん組織を使い、遺伝学的、そして、エピジェネティックな解析を行った。RBとATMの相互作用がDNAメチル化酵素DNMT1の安定性を制御すること、また、DNAマイクロアレイ解析からInk4a、Shc2、FoxO6、そして、Nogginを含む数百のがん関連遺伝子プロモーターのDNAメチル化状態が、RB-ATM-DNMT1の相互作用により調節されていることを発見した。さらに、bisulfite(重亜硫酸ナトリウム)法により、これら遺伝子プロモーターのDNAメチル化状態はRBとATMによって緊密に調節されていることを示した。定量化ChIP(クロマチン免疫沈降)法による解析結果もRBとATMの状態が、Ink4aプロモーターへのDNMT1の結合を制御するという上記の観察と一致した。RBの不活性化は、アセチル化酵素Tip60を介してのATMの活性化を引き起こし、Tip60およびUHRF1(E3リガーゼ)と複合体を形成したDNMT1へのATMの結合を促進すること、その結果DNMT1はTip60によるアセチル化、続いてUHRF1によるユビキチン化を受け、分解されることを明らかにした。加えて、ヒトがんにおいて、RBの低発現がATMのリン酸化(S1981)、DNMT1及びp16INK4aの発現と非常によく相関することを明らかにした。これらの研究結果は、RB経路の不活性化が、DNMT1の不安定化を介して、異常なDNAメチル化状態を引き起こしていることを示している。
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