前年度までに、非癌ヒト乳腺上皮組織由来の2種類の不死化細胞株(自然不死化細胞株MCF-10AおよびhTERT導入による不死化細胞株hTERT-IMEC)に対するBRCA1遺伝子のターゲッティングを実施し、樹立した同遺伝子へテロ欠失クローン群にDNA相同組換え修復能の低下とそれに伴うゲノム不安定性の増加を見出した。一方、同クローン群に明らかな癌形質の獲得は認められなかったため、BRCA1ヘテロ欠失は乳癌発生の初期段階で癌化の素地形成には関与するものの直接形質転換を誘導することはないと示唆された。 本年度は、樹立したBRCA1ヘテロ欠失クローン群と対照クローン群(親株およびターゲッティングベクターがゲノムにランダム挿入されたクローン群)に対してマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った。解析対象には、MCF-10AとhTERT-IMEC由来の細胞クローン群から、それぞれBRCA1ヘテロ欠失クローン3個と対照クローン3個を用いた。まずそれぞれの細胞クローンから型通りにtotal RNAを抽出し、Cy3でラベリングしてcRNAプローブを作成し、ハイブリダイゼーションを行った。アレイスライドは、Agilent Technologies社のオリゴDNAマイクロアレイシステムを使用し、シグナルの定量はFeature Extractionソフトウェアによって行った。得られたデータのクラスタリング解析によって樹形図を作成し、BRCA1変異の有無によって細胞クローン群が2つのカテゴリーに分かれることを確認した。また、対照群に比べてBRCA1ヘテロ欠失クローン群で発現亢進している遺伝子を同定し、機能面から同クローン群の表現型への関与が疑われる遺伝子を選定した。得られた遺伝子に関して半定量的逆転写PCRによる発現解析を行い、BRCA1ヘテロ欠失クローン群で発現亢進していることを確認した。
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