腸上皮細胞におけるAhRの発現と機能: 野性型C57BLマウスの腸組織を用いて、in situ hybridization によりAhR 発現細胞の分布を解析した。陽性細胞は主としてリンパ組織や粘膜固有層に見られたが、クリプト底部にもシグナルが認められた。AhRKOマウスの腸に陽性細胞はみられず、シグナルの特異性が示された。クリプト底部は増殖の盛んな部位であり、AhRと増殖調節機能の関連性が示唆された。 ヒト大腸がん手術材料を用いて、免疫染色によりAhR発現部位を検討した。がん部において陽性細胞は間質細胞、がん実質細胞に認められた。ヒト大腸がん細胞株で、RT-PCRおよびイムノブロットによりAhR発現量を検討した。RNAレベルと蛋白レベルは相関した。MG-132処理後のAhRタンパク量を調べると、処理の前後でタンパク量に差はみられなかった。細胞内AhR蛋白量は、蛋白分解よりはむしろ転写レベルで調節されていると考えられた。 c-kitはstem cell factor の受容体であり、マウス腸由来の自然リンパ球ではAhRの標的遺伝子であること、またクリプト底部の上皮細胞に分布することが示されている。ヒト大腸がん細胞株を用いてAhRによるc-kit発現誘導を検討した。AhRリガンドであるメチルコラントレン処理により、既知のAhR標的遺伝子であるCYP1A1 mRNAが誘導される条件下で、c-kit mRNAの増加が認められた。 がん微小環境の形成: 野性型またはAhRKOマウスから採取した腹腔マクロファージと三次元培養した腸初代培養細胞を種々に組み合わせてco-cultureし、培養4週目の培養上清に含まれるサイトカインの差異をメンブレンアレイを用いて検討した。CXCL1やCXCL5、GCSFやMCSF、IL-6等が検出されたが、組み合わせによる差は認められなかった。
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