加熱食品中に含まれる発がん物質ヘテロサイクリックアミン類の中で最も多く存在するPhIPは、ゲノムDNA中のdGと付加体を形成する。この付加体ががん抑制遺伝子・がん遺伝子中にできて変異を引き起こすことが発がんの一因と考えられるが、この遺伝子変異だけではPhIPの発がん性のすべてを説明することは出来ない。PhIP-DNA付加体形成によりDNA損傷チェックポイント応答(DDR)が活性化し、その状況が解消されずに持続すること、或いはDDRが破綻することが、発がんの前段階として極めて重要と考えられる。 細胞株・初代培養細胞・ラット個体などを用いて、これを実証することが本研究の目的である。また、DDR以外に活性化される経路があるかどうかについても調べる。本年度は、ヒト大腸がん由来細胞HCT116を用いてPhIP曝露により具体的にどの経路が活性化しているのかを、各種特異的抗体及びそのリン酸化型特異抗体を搭載したプロテインアレイを用いて解析した。昨年度までの結果から予想された通り、DDR関連因子、アポトーシス関連因子、PI3K/Akt経路の活性化が認められた。同時に、FGFR、VEGFR等の受容体やSrc、Raf、Kit等のがん遺伝子の活性化、MAPK経路の活性化が示された。PhIP曝露に対する細胞応答には、DDRによる増殖停止と、膜受容体の活性化及びその下流のSrc、Raf、Kit等のがん遺伝子の活性化を伴ったPI3K/Akt経路・MAPK経路の活性化による細胞増殖の亢進という相反する応答が存在することを示している。おそらくは、PhIPは低濃度では増殖の亢進に、高濃度では増殖停止に働くものと推察される。今後、細胞応答のPhIP濃度依存性についてさらなる解析が必要と考える。
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