我々の樹立した膵臓上皮特異的遺伝子改変マウスは、Krasの活性化とTGF-betaシグナルのブロックにより、臨床の膵癌をよく近似した線維化の著明な管状腺癌を呈する。その間質の豊富な組織像から、腫瘍微小環境における癌細胞と間質との相互作用が膵癌の発育進展に重要であることが示唆される。 本モデルの膵癌細胞は、CXCR2に結合する複数のCXCケモカインを特徴的に産生、このケモカインは癌細胞自体の増殖は促進せず、間質の線維芽細胞の受容体CXCR2に作用し、血管新生を促進することで膵癌の進展に寄与していた。本マウスにCXCR2阻害剤を投与すると腫瘍の増大速度が落ち、生存期間が有意に延長し、分子標的治療としての有用性が示唆された。この腫瘍組織にはマクロファージや好中球の浸潤も顕著であり、生存が延長したマウスの腫瘍組織ではこれらの炎症細胞浸潤が減少していた。したがって、腫瘍組織中に浸潤したマクロファージなど炎症・免疫系の細胞も腫瘍微小環境を標的とした膵癌治療の治療標的となり得ると考えられ、マクロファージに発現するCSF1R(colony-stimulating factor 1 receptor)の阻害剤を単独およびgemcitabineとの併用でこのモデルマウスに投与し、生存期間や腫瘍組織像を検討した。結果としては、CSF1R阻害剤単独、CSF1R阻害剤+gemcitabine併用のいずれにおいても、本期間内での投与実験においては生存期間の有意な延長がみられず、治療法としての有効性を示すことができなかった。膵癌微小環境における腫瘍間質相互作用は、治療介入点として期待されるが、今回の阻害剤については投与量・時期・併用での量の調整などの検討が必要と考えられた。また、マクロファージ以外の標的やCSF1R以外の標的分子の探索も重要と考えられた。
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