本年度は、ヌードマウス皮下移植ヒト胃がん組織(Xenograft)系を用いて、FACSにより分画した細胞を免疫不全マウスへ移植して細胞の造腫瘍性を調べることにより、ヒト胃がん幹細胞のマーカーの同定を試みた。その結果、ある特定の表面抗原が、造腫瘍性の高い細胞のマーカーとして非常に有望であることが明らかになった。 Xenograft系で維持している腫瘍組織の病理形態学的な特徴は、原発胃がんと極めて類似している。しかし、乳がんや大腸癌を用いた研究で、マウスの体液環境中で長期間維持していると、その表面抗原プロファイルが、原発腫瘍とは異なってくることが報告されている。そこで、手術後直ちに(マウスの体液環境にさらすことなく)、原発胃がんの細胞を解離し、その表面抗原発現と造腫瘍性との対応を調べた。その結果、これまでに3例、我々が同定した抗原が、原発胃がんでも、造腫瘍性の高い細胞のマーカーとして使用できることを示す結果が得られた。 さらに、この抗原を発現している細胞は、無血清培養系で、がん幹細胞の特徴の一つと言われている、spheroids形成を起こすことを見いだした。 これらの結果は、我々が見いだした細胞表面抗原が、胃がん幹細胞のマーカーであることを強く示唆している。 今後、この系を更に発展させてヒト胃がん幹細胞を同定すると共に、試験管内でこの細胞が増殖する無血清培養系を樹立し、ヒト胃がん幹細胞をターゲットとする治療薬の開発につなげたいと考えている。
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