研究概要 |
低分子量GTP結合蛋白質Rasは多くの細胞成長因子の下流で働くシグナルのスイッチである。その活性は、活性化因子GEF(GDP/GTP交換因子)と不活性化因子GAP(GTPase活性化因子)のバランスによって制御されている。ヒトの多くの癌で変異を来しているRasは、Raf、PI3キナーゼおよびRalGEF(低分子量GTP結合蛋白質Ralの活性化因子)を直接のエフェクターとする。最近、RalGEFを介したRalの活性化がヒトの癌で重要であるという報告が相次いでいる。Ralの抑制性制御因子(GAP)はこれまで不明であったが、最近、我々は世界に先駆けてRalGAPを同定した(JBC, 2009)。本年度は、膀胱癌悪性化におけるRalGAPの役割を重点的に解析し、膀胱組織の主要なRalGAP活性サブユニットはRalGAPα2で、浸潤性膀胱癌細胞でRalGAPα2の発現が著しく低下し、そのため、Ralの活性が上昇していた。そして、浸潤性膀胱癌細胞へのRalGAPα2の強制発現はマウスで肺転移を抑制すること、化学膀胱発癌を誘導すると野生型では認めなかった浸潤性膀胱癌がRalGAPα2遺伝子KOマウスでは42%に生じたこと、癌組織でRalGAPα2が発現低下したヒト膀胱癌患者の生命予後は不良であることを見いだし、論文発表した(Oncogene, 2013)。このようにRalGAPα2の発現低下は膀胱癌悪性化に深く関わっている。さらに、悪性化に伴う種々の膀胱癌細胞株RalGAPα2の発現低下のメカニズムを解析し、CpGアイランドのDNAメチル化および、ヒストンアセチル化が深く関与していることを見いだした(発表準備中)。
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