研究概要 |
PITX1をマウスのメラノーマ細胞へ導入した結果、テロメラーゼの主要構成成分として知られているTERT遺伝子の著しい抑制効果を示した。加えて、テロメラーゼ活性が抑制された細胞クローンを用いて、RNAiによるPITX1遺伝子の発現をノックダウンさせた結果、テロメラーゼの活性化が誘導された.さらに、種々のがん組織においてPITX1の発現スクリーニングを可能にした組織アレイ解析を行った結果、肺がん、胃がん、前立腺がんなどを含む種々のがんでその発現の消失あるいは低下が認められた。とりわけ胃がんでは、70%(11/16)にPITX1の発現消失が高頻度に認められた。このように、PITX1は,テロメラーゼ活性の制御を通じて様々のがんの発がん過程に関与することが予想された。さらに、メラノーマにおけるPITX1の発現を解析した結果、7種類の中の5種類の細胞株において著しい発現消失が認められた。このことより、PITX1はメラノーマの発生過程においても重要な役割を担っている可能性が示唆された。がんにおいてPITX1遺伝子の変異は報告されていないことから、PITX1の発現消失あるいは低下は、エピジェネティクスの変化あるいはPITX1の発現を抑制する分子に起因する可能性が示唆された。そこで、PITX1の発現消失が認められメラノーマ細胞株において、DNAメチル化の阻害剤である5-アザシチジン(5-Aza)処理によるPITX1の発現変動解析を行った結果、5-Aza濃度依存的にPITX1の発現増加を示し、TERTの発現は逆相関して低下した。このように、メチル化などのエピジェネティクスの変化がPITX1上に存在することが示唆され、今後その詳細な解析ががん発生メカニズムの解明あるいは診断法などの開発につながることが期待された。
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