研究課題
本年度においては、ヒトメラノーマ組織標本におけるPITX1発現と臨床病理学的因子との関連を検討した。ヒト正常皮膚標本3例およびヒトメラノーマ組織標本40例を用いた。正常皮膚組織においては、メラノサイトにおけるPITX1発現を、他方腫瘍組織における発現はメラノーマ細胞に焦点を当て、免疫組織化学的にPITX1蛋白を検出した。腫瘍組織においては、メラノーマ細胞におけるPITX1陽性細胞の有無で陽性例と陰性例に分けた。増殖活性の検討は上皮内黒色腫(メラノーマin situ)を除く26例を対象とし、腫瘍細胞500個以上におけるKi-67labeling index (KI,%)を算出した。PITX1蛋白は、メラノサイトにおいて発現していることを確認した。メラノーマ症例におけるPITX1陽性例は21例(52.5%)、陰性例は19例(47.5%)であった。両群間において年齢、性別および組織型に差はなかった。他方、腫瘍の厚みは、陽性例が1.90±7.11mm、陰性例が3.19±10.3mmであり陰性例で有意に高値を示した(P=0.001)。また、転移の有無を比較したところ、PITX1陽性例では21例中1例(4.76%)のみであったのに対し、陰性例では19例中7例(36.8%)と陰性例において有意に転移陽性例が多かった(P=0.012)。さらにステージ0-II群(n=30)とIII-IV群(n=10)に分類したところ、前者におけるPITX1陽性例は19例(63.3%)、後者では2例(20.0%)と病期の進行に伴ってPITX1陽性例が有意に減少した(P=0.019)。PITX1陽性例においてPITX1陽性領域と陰性領域におけるKIを算出したところ、陽性領域は12.5±1.54、陰性領域は29.8±4.38でありPITX1陰性領域において有意に増殖能が高かった。このように、PITX1は細胞増殖を負に制御する因子で、特にメラノーマ細胞においてがん抑制遺伝子として機能していること、さらにその発現低下がメラノーマの悪性度マーカーとなる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究期間において、PITX1が新規のメラノーマの悪性度マーカーとして利用できる可能性が示唆されたことから高い達成度を得ることができたと考えられる。
さらに症例数を増やし解析を進めることによりPITX1の悪性度マーカーとしての実用化の見通しを立てる。一方、PITX1にかかわる分子群の同定を実行し、それらの詳細な機能解析を通して「PITX1-テロメラーゼ抑制経路」をとりまく制御ネットワークを明らかにし、その情報を元に新たな制がんの戦略提示を行う。
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Biochim Biophys Acta-Molecular Cell Research
巻: 1823 ページ: 889-899
doi:10.1016/j.bbamcr.2012.01.017
PLoS ONE
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http://www.med.tottori-u.ac.jp/genebio/512/4955.html