研究課題/領域番号 |
22501014
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡 素雅子 九州大学, 生体防御医学研究所, 特任助教 (80467894)
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研究分担者 |
中別府 雄作 九州大学, 生体防御医学研究所, 教授 (30180350)
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キーワード | ゲノム / 酸化ストレス / シグナル伝達 / 細胞死 / 癌 |
研究概要 |
p53が劣性遺伝性大朧症の原因遺伝子MUTYHの転写を促進することにより、細胞死の誘起および突然変異蓄積の抑制を介して発がんを抑制する事を明らかにする。 〔平成23年度の研究成果〕 1,MUTYH遺伝子領域におけるp53の結合領域同定 これまでにp53野生型HCT116細胞におけるクロマチン免疫沈降を用いた解析により、MUTYH遺伝子上のp53結合領域を同定した。HCT116細胞はミスマッチ修復酵素であるMLH1発現が欠損しており、この欠損がp53発現の安定性に影響する可能性が国外の報告から示唆されたため、本年度はHCT116細胞にChr3を微小核導入することによりMLH1を発現しているHCT116+Chr3細胞を用いて、p53結合領域の解析を行っている。さらに同定したMUTYH遺伝子上の機能的p53応答配列において、配列特異性を検討するため配列の一部に変異を導入したコンストラクトを作成中である。 2,p53によるMUTYH依存性細胞死制御機構の解明 これまでにp53によるMUTYH依存性細胞死経路を検討してきたが、MLH1発現HCT116+CHr3細胞においてもMUTYHがp53制御下において酸化ストレス下の細胞死を誘導することを明らかにした。さらに我々が報告した、核あるいはミトコンドリアDNAに蓄積した酸化障害が誘起する異なる2つの細胞死経路を、PARP Calpain阻害剤を用いて検討した。結果、酸化ストレス下のHCT116およびHCT116+Chr3細胞では、核DNAに酸化障害が蓄積することによりPARP依存性に誘起される細胞死経路が主に観察された。 3,がん幹細胞における酸化塩基修復酵素の役割 ある種の大腸がん細胞株においてCD133はがん幹細胞のマーカーとして用いられている(PMNAS 2010, 107:3722-3727)。これまでにp53野生型HCT116細胞株においてCD133陰性と比較しCD133陽性細胞ではミトコンドリア型hOGG1の発現レベルが高い事を見いだした。現在MUTYH, MTH1の発現を比較解析中である。 以上1.2.3の結果をもとに現在論文投稿を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験の進展に応じて、計画年度の順番は変更している。平成22年度計画:MUTYH田遺伝子上におけるp53結合部位の解析、は計画最後の実験である結合配列への変異導入コンストラクトを作成中である。平成23年度計画:p53の有無によるMUTYH発現の比較、はp53欠損H1299細胞、p53野性型HCT116細胞株、さらにHCT116+Chr3細胞も加えて解析終了している。さらにp53抑制剤PFTαとMUTYH-siRNAを組み合わせてp53の制御下でMUTYHが細胞死を誘起することを明らかにした。MUTYHアイソフォーム導入による細胞死の検討は現在進行中であるが、平成24年度計画:細胞死経路の解析、を同時に進めており、ヒトがん細胞株HCT116細胞においては核DNAに蓄積した酸化障害が誘起するPARP依存性細胞死経路が主に稼働する事を見いだした。さらに実験の過程で、当初にはなかったがん幹細胞におけるDNA修復酵素系の役割について、CD133陽性、CD133陰性細胞の比較によりCD133陽性細胞に特異的な酵素発現のパターンを見いだす事ができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は2期に分けて実験を予定している。前期にp53結合配列への変異導入コンストラクト構築およびルシフェラーゼ活性の抑制の検討、HCT116+Chr3細胞を用いたCHIPアッセイを予定している。後期に細胞死経路の詳細な検討を行う。核DNA一本鎖切断はsDNA抗体を用いた蛍光免疫染色法により検出する。ミトコンドリアDNA一本鎖切断はチトクロームcオキシダーゼIをコードしているmt-Co1のDNA量の減少としてPCRを用いて解析する。さらにPARPおよびカルパイン活性化を検討する。以上をまとめ、本年度中の本研究課題論文の投稿、発表を予定している。
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