研究課題
Ikaros変異はヒト、マウスでともにT細胞性リンパ腫の発症に関与することが知られており、Ikarosにより制御される遺伝子群にはこれまで同定されていない発ガン遺伝子、あるいはガン抑制遺伝子が含まれていると考えられる。本研究ではそのような遺伝子の同定を目的として、Ikarosのゲノム結合サイト、およびIkaros変異細胞における遺伝子発現プロファイルより候補遺伝子を抽出し、そのT細胞分化およびガン化への関与の検討を進めてきた。昨年末までにおよそ20余りの候補遺伝子についてFTOC(fetal thymic organ culture)を用いてスクリーニングしたが、コントロールとして用いたIkarosノックダウン様の表現型を示すものは同定されなかった。Ikaros変異胸腺細胞におけるクロマチン構造変換因子Mi-2βおよび様々なヒストン修飾のゲノム上の分布をChIP-seqを用いてゲノムワイドに検討したところ、Ikaros非存在下においてMi-2βは多数の新規サイトに結合すること、また抑制的なヒストン修飾であるヒストンH3K27のトリメチル化が顕著に減少していることが明らかとなった。このことはIkarosにより間接的に制御される遺伝子群に目的とする遺伝子が含まれている可能性、および広範囲に及ぶH3K27トリメチル化の低下が遺伝的ネットワークの制御異常をきたしガン化を引き起こす可能性を新たに示唆した。両方の可能性について検討を進めるため、間接的なIkaros標的遺伝子の中から候補を新たに絞り込むとともに、ゲノムワイドなH3K27トリメチル化のリンパ腫発症への関与についても検討を進めるため、H3K27メチル化酵素複合体の必須サブユニットであるEedの条件的遺伝子変異マウスの作成を開始した.
3: やや遅れている
当初はIkarosにより直接制御される遺伝子のみに焦点を当てて候補遺伝子の絞り込みを行ってきた。しかしゲノムワイドな解析の結果はIkaros欠損によるMi-2bの新規遺伝子への局在と活性化、あるいは広範囲なH3K27トリメチル化の低下による遺伝的プログラムの制御異常がガン化における重要なイベントである可能性を新たに明らかにした。このためIkarosの直接的な標的遺伝子からのアプローチでは不十分であることが考えられる
Ikaros変異によるリンパ腫発症のメカニズムとして上述の可能性が新たに考えられたため、今後はIkarosの間接的な標的遺伝子についても絞り込んだうえ候補としてスクリーニングしていく予定である。またH3K27トリメチル化の関与についてもEedの条件的遺伝子変異マウスの作成と解析を通して検討を行う予定である。
すべて 2011
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