研究課題/領域番号 |
22501023
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡野 慎士 九州大学, 大学病院, 臨床助教 (10380429)
|
キーワード | 腫瘍免疫 / 免疫回避機構 / バイオマーカー / 癌 |
研究概要 |
腫瘍の免疫回避機構に関わる詳細な分子機序解明のために、B16F1メラノーマ腫瘍内樹状細胞投与モデルを用い、特異的腫瘍免疫応答を回避する細胞株・クローンを樹立した(B16F1株を皮下接種し7日目の生着腫瘍の腫瘍内に、活性化骨髄由来樹状細胞を投与するマウスを使用;このマウスは5~8割の確率で生着腫瘍を拒絶)。このメラノーマ拒絶マウス(以下、免疫マウスと呼ぶ)は、再接種されたB16F1は100%拒絶するが、EL4は拒絶しないこと、また、T細胞を除去すると拒絶応答が消失することより、拒絶応答は腫瘍特異的T細胞依存性であった。その免疫応答に耐性な腫瘍株の出現が細胞株内のクローン選択的増殖によるものでないことを証明するために、親株より限界希釈法にて、クローンを樹立し、同様の樹状細胞療法を行った。検討した5個のクローンは、naiveマウスで生着し、免疫マウスで拒絶されるもので、うち4クローンに関して、マウスの皮下に接種し、同様の樹状細胞療法を施行、うち少なくとも2つのクローン由来の腫瘍塊は、1~3割の確率で、親株で観察された腫瘍増殖パターンを示した(免疫療法後、一旦ドーマントな状態になり、再度急速に増殖する)。この再増殖した腫瘍塊より、腫瘍株を樹立し、更にその腫瘍株をクローン化(38クローン樹立)した。うち3個のクローンについて、拒絶マウスに再接種したところ、全て拒絶されずに腫瘍塊を形成した。PBSで治療した腫瘍塊からのクローン(30クローン樹立)は検討した4つのクローン全て免疫マウスで拒絶された。獲得された免疫回避機構の責任分子の同定の目的に、レンチウイルスベクターによる遺伝子導入システムとそれを基盤とする腫瘍細胞株・クローンの発現遺伝子ライブラリーを構築した。以上より、腫瘍免疫療法で惹起される腫瘍特異的T細胞依存性に、耐性腫瘍クローンが新たに出現することが世界で初めて実証された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
i)本研究の拒絶マウスの作製が1連の実験に2ヶ月、クローン作製に1ヶ月、再接種後の経過観察に2ヶ月要すること、ii)腫瘍のゲノム不安定性のため、責任タンパク質の質的異常に起因する免疫回避機構が出現することが示唆され、発現遺伝子の網羅的解析に次世代シーケンサーを使用する必要性が生じたこと、iii)樹立されたクローンから遺伝子発現ライブラリー作製及びそれを用いたレンチウイルスシステムを利用したライブラリー遺伝子導入システムの構築に時間を要した。
|
今後の研究の推進方策 |
現在の進行状況の遅延に対し、日常業務に占める本研究のエフォートを60%に上げる(既に部局内の業務に関しては調整済み)。レンチウイルスを基盤とした発現遺伝子ライブラリーを作製して、ライブラリーの遺伝子導入法を確立する必要性が生じたが、レンチウイルスベクターシステムの構築及び一部の細胞由来発現ライブラリーは既に作成済みで、この方法に従って、総力を挙げて各腫瘍細胞の遺伝子導入ライブラリーを完成させる。次世代シーケンスについては、九州大学ゲノム解析コンソーシアムでの受託解析を利用する。
|