研究概要 |
本研究の最終目的は,腫瘍抗原が主にクラスII MHCに提示されるような腫瘍に対する新たな治療法の確立,すなわち,その腫瘍抗原に特異的なCD4^+T細胞株を株化し,遺伝子導入により細胞傷害活性を付与して生体に戻し腫瘍を攻撃させるという,遺伝子細胞療法を検討,確立することである。前年度,細胞傷害活性を持たないマウスTh2細胞に対して,CD8^+キラーT細胞におけるマスター制御分子と考えられているT-boxファミリー転写因子Eomesodermin(Eomes)を導入したところ,CD8^+キラーT細胞で見られる2つの細胞傷害経路(perforin/granzyme経路とFasL-Fas経路)両方が活性化され細胞傷害活性が付与されるという結果を得た。これを踏まえて本年度には研究計画調書に記述した通り以下の事を行い,本研究計画を進展,展開させた。 1.Eomesによる細胞傷害経路活性化の機序について解析するために,細胞傷害活性を持たないTh2細胞に,遺伝子導入によりperforin/granzymeを高発現させたところ,その細胞傷害活性はEomes導入株に比べて有意に低く,Eomesはこれらの分子の誘導のみならず,これらの分子が機能するための環境整備等も行っていることが示唆された。 2.ヘルパーT細胞をキラーにするための導入遺伝子について複数の候補を確立すべく,CD8^+キラーT細胞中で細胞傷害活性発現に重要だと考えられているもう1つの転写因子T-betについても同様な検討を行ったところ,Eomesと同等の活性が見られ,細胞に導入する候補遺伝子として用いられることが示唆された。 3.動物モデルとしては,アロ抗原をモデル抗原として用いる予定であるが,宿主マウスに生着させるために必要と考えられるFas欠損株を得ることができた。CD8^+キラーT細胞の関与をなくすために現在までにb2ミクログロブリン欠損マウスを10回BALB/cマウスに戻し交配し,BALB/cマウス由来のBリンパ腫A20.2J細胞やそれにアロ抗原(I-A^k)遺伝子を導入した細胞が生着するマウスの系の確立を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Eomesoderminにより活性化される細胞傷害経路については,Fas欠損の1prマウスの細胞やperforin経路特異的阻害剤Concanamycin Aなどを用いることにより計画通り明確に示すことが出来た。またEomesoderminがperforinやgranzymeの誘導以外に重要な機能を持つことや,万一Eomesの使用に問題(重大な副作用等)が生じた際のバックアップ遺伝子としてT-betも使用可能であることも示され,計画が順調に遂行できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は動物モデル系の確立,副作用等の検討を行う予定である。モデルマウスについてはアロ抗原の使用が困難な場合に備え,バックアップとして(卵白アルブミンなどの)可溶性抗原を用いる系の確立も目指している。副作用の検討としてはEomes導入による遺伝子発現パターンを解析し,本治療法の副作用に対する予防,対処の基礎とする。また将来的にはT細胞特異的に発現させたTgマウスを作製し,CD4陽性T細胞にEomesを強制発現させた場合の,個体の免疫応答に対する影響を詳細に解析する。
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