本研究の最終目的は,クラス II MHCに提示される腫瘍抗原をターゲットとした新たな抗腫瘍療法の確立,すなわち,腫瘍抗原特異的なCD4+ T細胞を株化し,遺伝子導入により細胞傷害活性を付与して生体に戻し腫瘍を攻撃させるという,遺伝子細胞療法を検討,確立することである。前年度までに,細胞傷害活性のないマウスTh2細胞において,2つのT-boxファミリー転写因子,Eomesodermin(Eomes)とT-betの強制発現の効果を検討したところ,いずれの遺伝子を単独導入した場合でもCD8+ CTLで見られる2つの細胞傷害経路(perforin/granzyme経路とFasL-Fas経路)両方が活性化され細胞傷害活性が付与されるという結果等を得た。これらの結果を踏まえて本年度は研究計画調書に記述した通り以下のことを遂行し,本研究計画を進展させた。 1.ヘルパーT細胞においての重要機能分子であるCD154の発現上昇について, Eomes/T-bet 遺伝子導入Th2細胞株で検討したところ,いずれの遺伝子の導入株の場合でもCD154の発現上昇が抑制されることが判明し,これらの分子はCD8陽性細胞中で細胞傷害機能の付与だけでなくヘルパー機能の抑制も行っていることが示唆された。 2. Eomes遺伝子導入による遺伝子発現の変化についての知見を得るためにマイクロアレイ解析を行ったところ,GzmKやNkg7,CD160,Slamf7など主にCD8+ CTLやNK細胞で発現している遺伝子の誘導がEomes導入株で観察され,Eomesはこれらの分子についても転写誘導,促進を行っている可能性が示唆された。 3. Eomes遺伝子導入細胞を生体に戻す際の副作用について解析するためにEomes-Tgマウスの作成を行った。現在まで2つのラインが得られており,導入遺伝子の発現について解析しているところである。
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