細胞内の酸化還元(レドックス)反応は、細胞の状態やその置かれた環境下に応じて厳密に調節されている。レドックス状態が細胞の悪性化にともなって量的・質的な変動を起こしていることを示す研究例が近年になって増加している。レドックス反応の中心となっているのは蛋白質システイン残基のチオール基(SH基)である。本研究では、SH基の酸化還元の度合いを包括的に測定する技術を開発することを目的とした。本年度のおもな研究成果は以下の2点である。 (1)分離再現性の高い非還元/還元二次元電気泳動法の開発:非還元/還元二次元電気泳動では、分子内と分子間にジスルフィド結合(S-S結合)をもつ蛋白質はそれぞれ対角線の上側と下側に泳動され、S-S結合をもたない分子は対角線上に並ぶ。分離条件の工夫として一次元目のポリアクリルアミドゲルをプラスチックフィルムで裏打ちした。この結果分離の再現性が向上し、手技的な熟練に依存しない分離手順が実現した。 (2)還元SH残基への蛍光プローブの導入:システイン残基の数がわかっている標準蛋白質を用いて、結合率が最大でかつ副反応が最小限にとどまる反応条件を設定した。蛍光プローブとしてモノブロモビマン(mBBr)を用いた。変性剤を含まないpH7.4の溶液中で、蛋白質分子内の還元SH基の数に応じた蛍光強度が得られた。この結果からSH基の酸化度を測定するための基本条件が整った。すなわち、反応した蛍光プローブの蛍光強度を測定することによって、反応性を有しない酸化SH基の量を見積もることが可能となった。
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