がん転移、特に腹腔にちりぢりに散在した腹膜播種性転移がん細胞の外科的摘出は不可能であり、既存の抗がん剤による治療、さらには現状のDDS技術を駆使しても散在するがん細胞への薬物送達は非常に困難である。これまでに申請者は、転移性がん細胞はある種のケモカインに向かって移動する、すなわち、ケモカインによる種々転移性がん細胞の「呼び込まれ機構」を解明してきた。さらに、この「呼び込まれ機構」が、がんの転移成立における重要な役割を担っていることを明らかとしてきた。従来のDDSの概念は、薬物を細胞(組織)に送達させることであった。しかしながら本研究では上記現象を利用して、DDSの概念を一新する「薬物自体ががん細胞を呼び込む」、いわば「自立的がん細胞呼び込み型DDS製剤」の開発することを目的とし、将来的にこのDDS製剤を適応した治療により播種性がん転移の撲滅を目指すことを目標にしている。本年度は、各種がん細胞標本を用いてケモカイン受容体の発現を解析した。その結果、胃がん細胞には、ケモカイン受容体CXCR4が高発現していることが確認できた。次に、そのリガンドであるケモカインCXCL12に対する遊走特性を評価した。ボイデンチャンバー法では、胃がん細胞は下層のケモカインCXCL12に向かって遊走し、その方向性を見いだせた。しかしながら、リアルタイムの遊走活性モニタリング装置の解析では、遊走の方向性は見いだせず、運動性の自由度が亢進している結果となった。
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