本年度は、抗パクリタキセル(PAC)抗体と抗L-type amino acid transporter I (LAT1)抗体からなる二重特異性小型化抗体の効率的な生産系の確立を目指して、種々の大腸菌を形質転換した後、組換えタンパク質の大量発現を検討した。可溶性画分への発現を実現することができなかったものの、不溶性画分への発現を確認することができた。本法を用いることで、十分な二重特異性小型化抗体を得ることができた。 精製した二重特異性小型化抗体を活性体へと巻き戻した後に、作製した新規キャリアーの有用性について各種癌培養細胞を用いたインビトロ試験により検証した。まず、マウスミエローマ細胞の増殖抑制効果に関して調査した。その結果、PAC単独投与と二重特異性小型化抗体共存下の両条件において、有意な差を確認することができなかった。そこで、ヒト子宮癌由来細胞を用いて、同様の細胞増殖抑制効果を調べた。しかしながら、同様に作製した新規キャリアーによるPACの抗腫瘍活性の上昇を確認することができなかった。また、癌細胞内の核酸の断片化についても同様に差異が認められず、新規キャリアーの選択的パクリタキセル送達能が発揮されていないと推察された。その原因として、分子内にジスルフィド結合を持たないsingle-chaine Fv (scFv)の構造的な不安定性が原因と推察し、より安定なantibody binding fragment (Fab)を用いた新規キャリアーの構築を進めている段階にある。既に、抗PAC FAbの作製に成功し、その構造安定性に基づく、抗原認識能の向上を確認した。今後は、同様に抗LAT-1 Fabの作製を行い、続いて、二重特異性Fabの構築を進めていく計画である。
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