研究概要 |
癌薬物療法の適応決定に有用な新しい亜分類の確立を目指して、多数の乳癌症例を対象にシグナル伝達系を網羅的に解析する研究を行っている。 平成22年度は当院で1996年に手術を施行した浸潤性乳管癌338例を対象に、シグナル伝達経路の下流に位置する因子(p-AKT,Cyclin D1,p27,p-p70S6K,p-4EBP1,p-MAPK/ERK)を免疫組織化学的に検索し、その発現状況を確認した。染色強度と陽性細胞の割合を加味した染色スコア(0,2-6)が5点以上を陽性と定義すると、各因子の陽性率は、p-AKT:74%,Cyclin D1:12%,p27:53%,p-p70S6K:37%,p-4EBP1:19%,p-MAPK/ERK:3%であった。 平成23年度は、これらの結果を用いてクラスタリング解析を行い、対象症例の亜分類を試み、その亜分類と臨床病理学的因子(手術時年齢、閉経状況、臨床病期、リンパ節転移の有無、組織型、核グレード、ホルモン受容体とHER2によるサブタイプ、予後)との関連を検討した。対象症例はまず2群(グループ1,2)に分類され、さらにそれぞれ2群に分類された。2つのグループと有意に相関していたのは、ホルモン受容体とHER2を組み合わせたサブタイプ分類(χ2検定:p=1.34E-14、Fisher検定:p=5.59E-15)、核グレード(χ2検定:p=1.16E-07、Fisher検定:p=1.42E-07)、組織型(χ2検定:p=0.033518、Fisher検定:p=0.033765)であった。2つのグループと予後との関連はみられなかった(再発の有無:ログランク検定p=0.603924,生死:ログランク検定p=0.859098)。以上より、現在までに、シグナル伝達経路の活性化状況による乳癌の亜分類は可能であり、その分類はホルモン受容体とHER2を組み合わせたサブタイプ分類と関連していることが示された。また、この亜分類と核グレードや組織型が関連していたことは、シグナル伝達経路の活性化という分子生物学的な性質が癌の組織形態に反映されていることを示しており、非常に興味深いと思われた。
|