癌の骨転移は数多くの悪性腫瘍で発生し、日本国内においては10万~20万人の患者が存在する。近年のがん治療の進歩により完治しないまでも長期に生存する症例が増えているので、骨転移の症例数はこれから増加していくと考えられる。従って骨転移腫瘍の分子機構の解明および新たな治療法の開発は急務である。本年度は骨転移に特徴的なタンパク質発現を網羅的に同定するために、手術によって得られた転移性骨腫瘍の転移巣を対象とし、自作の巨大ゲルを用いた蛍光二次元電気泳動法と質量分析を用いたタンパク質発現解析を行った。使用した検体は、転移性骨腫瘍手術検体(肺癌2例、肝癌1例、膵癌1例、腎癌1例、胃癌1例、乳癌1例、耳下腺癌1例)であった。超高感度の蛍光色素でタンパク質を標識し、ゲル1枚あたり約2500種類のタンパク質スポットを確認した。その中で全症例について共通して発現しているタンパク質スポットについて質量分析を用いてタンパク質の同定を行った。従来の報告から癌の骨転移機構に関わると考えられている酵素タンパク質、癌の悪性度に関与するタンパク質を同定した。さらに、骨転移との関連性が示唆されていなかったタンパク質の同定にも成功した。平成23年度はさらに転移性骨腫瘍検体の症例数を増やし、原発巣とのタンパク質発現の比較も行う。また、タンパク質だけでなくRNA(mRNA、miRNA)の網羅的解析も実施する。骨転移に共通して発現するタンパク質・RNAだけでなく、原発巣ごとに発現の異なるものについても解析を進めていく。このような遺伝子産物の中には転移性骨腫瘍の診断バイオマーカーや治療標的が含まれている可能性があるので、多数症例における検証実験や培養細胞を用いた機能解析も実施する。
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