研究課題/領域番号 |
22501061
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
小林 博人 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (80318047)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ガンマ・デルタ型T細胞 / 腎癌 / 予後 |
研究概要 |
平成24年度までのフォローアップ期間は平均749日(17日-1159日、中央値736日)であった。173症例の内、12症例が手術時に転移を有し、17症例が経過中に転移・再発を認めた。癌なし生存群と癌あり生存及び癌死症例では、術前の末梢血ガンマ・デルタ(γδ)型T細胞の割合と数とに有意差は認めなかった。また、他のT細胞分画(CD4,CD8)とも有意差は認められなかった。また、良性腫瘍と診断された症例と腎癌症例との間にも有意差はなかった。 術後病理にてT1b以上の癌なし生存37症例と癌あり生存16症例の間では、生存期間に差はなかったが、癌あり生存群の方が有意に術前の末梢血γδ型T細胞の割合が高かった(p=0.034)が、絶対数については多い傾向にあったが有意ではなかった(p=0.06)。癌あり生存症例と癌死症例では、癌あり生存症例の方が末梢血γδ型T細胞の割合及び絶対数共に有意に高かった(p=0.02、p=0.04)。他のT細胞分画には有意差はなかった。 術後再発した17症例のうち、観察期間内に癌あり生存症例と癌死症例を比較すると、術後再発したがフォローアップ期間平均444日(100日-720日、中央値385日)で、癌あり生存症例の方が有意に術前の末梢血γδ型T細胞の割合及び絶対数共に高かった(p=0.03、p=0.04)。 末梢血γδ型T細胞が腎癌予後に影響する事が示唆されるため、γδ型T細胞の割合・絶対数が低く、抗原に対する反応性の低い症例について、その原因を検討した。In vitroにてγδ型T細胞を刺激する際に、抗原とインターロイキン2を用いるが、反応性が低い場合に他のサイトカインを添加すると、その反応性が増強することがわかった。このことから、γδ型T細胞に問題があるのではなく、γδ型T細胞を増殖させるサイトカインを分泌する他の細胞の関与が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度としては、おおむね順調に進展していると考えられる。腎癌術後2年間が再発の多い期間である。本研究ではほぼ全症例が東京女子大病院にてフォローアップされており、平均観察期間および観察中央値が2年を越え、非常に精度の高い臨床研究が進行できている。また、末梢血γδ型T細胞が腎癌予後に影響していることが強力に示唆されるデータが蓄積されてきている。また、末梢血γδ型T細胞の少ない症例について、その原因検索も進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
近年腎癌の罹患患者数が増えてきているが、スクリーニング検査等の無症候癌で見つかる症例が多く、腎癌初期ステージであるT1a症例であれば、10年癌特異的生存率が90%以上期待できるようになっている。本研究においても、癌なし生存137症例のうち、T1a症例は100症例(73%)あり、癌なし生存群と癌あり生存及び癌死症例との間に、末梢血ガンマ・デルタ型T細胞の割合、数ともに差が出なかったと思われる。そのため、癌なし生存群のうちT1b以上の症例に限ると、癌あり生存の症例の方に有意差が出たものと思われる。また、癌あり生存と癌死症例では、有意に癌あり生存の方が末梢血ガンマ・デルタ型T細胞の割合、数共に高いことがわかった。今年度も可能な限り、症例のフォローを継続すると共に、期間内でデータを固定し解析する。末梢血γδ型T細胞と生存期間延長との関連が示唆されるため、末梢血γδ型T細胞を増やすための方法を探索すると共に、減少の原因を探索する。本年度の研究で、末梢血γδ型T細胞が減少し、抗原反応が減弱している場合も、in vitroの系でサイトカイン添加によりその反応性が回復することがわかり、そのサイトカイン分泌不全が、一つの原因となり得ると考えている。本年度は、細胞表面抗原の解析から、サイトカイン分泌不全の原因検索を行う。担癌状態であっても、末梢血中ガンマ・デルタ型T細胞を増加させるような免疫療法を考案することにより、生存期間を延長できる可能性があり、新しい免疫療法の開発につながると考えられる。
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