ミトコンドリアは、エネルギーの産生や、アポトーシスに関与する細胞内小器官である。食道がん腫瘍において、mtDNAは高頻度で変異を生じていることを明らかにした。一方で、以前の我々や他のグループの研究結果から、mtDNA は核ゲノムDNA とは独立に不安定性を獲得したと考えられた。 ミトコンドリアにおいて酸化的リン酸化の副産物として活性酸素が発生する。酸化的リン酸化に関与するタンパク質の多型や変異によって、ATP 生成の効率が異なり、活性酸素の発生量が異なる可能性があり、ひいては、活性酸素によるmtDNA および核ゲノムへの変異の入り易さが異なる可能性が考えられる。そこで、mtDNA の変異の入りやすさの指標としてmtDNA の多型の数を用い、食道がん発がんリスクの関連を解析するため、食道がん患者および非がん患者の症例対照研究を計画した。mtDNA の複製・翻訳開始領域であるD-loop 領域は、多型が多く見つかっており、高効率で多型を検出できると考えられる。D-loop の多型を網羅的に調べ、mtDNA の多型の数の解析した。まず、血液由来DNA を用いて、塩基配列を解析し、標準配列と比較することによって、多型を網羅的に検索した。 現在までのところ、食道がん患者、非がん患者それぞれについて、塩基配列の解析、多型の同定を行っており、現在のところ平均で、食道がん患者で7.5多型/人、非がん患者で6.8多型/人の多型が検出された。主な、がん患者、非がん患者の主な違いは、塩基置換であり、がん患者、5.9多型/人、非がん患者5.4多型/人の多型が検出された。なお、標準配列は欧米人のmtDNA を基準に作成されていると考えられ、一部日本人とは異なっていると考えられる。標準配列とは異なるアレルの頻度が0.5 以上の塩基は、アレル頻度0.5 以上の塩基を基準にして、解析を行っている。
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