研究概要 |
大気中揮発性有機化合物(VOCs)は、OHラジカルとの反応や有機エアロゾルの形成を通じて、放射強制力や気候に多大な影響を及ぼしている。その重要性にも関わらず、各放出源・消滅過程とその量的バランス(収支)、大気中での反応に関して、未だ不明な点が多い。VOCs構成元素の安定同位体比は、大気中での収支や反応を理解する上で非常に有効な指標となることが認識されている。しかしながら、技術的困難さからVOCsの安定同位体比計測例は非常に限られている。本研究では、放出源および放出源近傍の大気試料とバックグラウンド大気試料についてVOCsの安定炭素同位体比を迅速・簡便に計測する方法を構築し、VOCsの大気化学的議論を進展させる安定同位体比解析法の基盤を構築することを目的とした。 本研究では、大気化学的に重要なアセトアルデヒドに着目し研究を進めた。マイクロ固相抽出法(Solid Phase Microextraction, SPME)とガスクロマトグラフィー‐燃焼‐同位体比質量分析法(GC-C-IRMS)を組み合わせた分子レベルでの炭素同位体比計測法(SPME-GC-C-IRMS法)を構築することができた。さらに、分子内の炭素同位体比分布を計測する方法の構築にも成功した。植物が放出するアセトアルデヒドに適用した結果、同じ植物が放出するアセトアルデヒドについて、分子レベル炭素同位体比は同じ値であっても、分子内同位体分布が異なることがあることを見出した。このことから植物由来の大気アセトアルデヒドについて、同位体情報からその代謝起源の推定の可能性が示唆された。
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