研究概要 |
不織布型固相抽出材調製法の改善と,微量元素のオンサイト固定化システムに関する検討を行い,以下の成果を得た。 1.不織布型固相抽出材調製法の改善:キレート繊維を不織布化し,直径47mmの固相抽出材とした。ニードルパンチ法を用いた場合は熱溶融繊維を添加し全体を熱加工したもの,縁のみを熱加工したもの,また紙すき法を用いた場合はキレート繊維を叩解した後不織布化したものなど,全14種の固相抽出材を調製し,21種の元素の捕捉特性を調べ,原綿(キレート繊維)のそれと比較した。その結果,ニードルパンチ法を用い,縁のみを熱加工したものが,元素捕捉におよぼすpHの影響,試料水通液速度の影響,試料液量の影響などにおいて原綿と同等の性能を有し,市販のフィルターホルダーに設置しても液漏れなしに適用できることを明らかにした。 2.微量元素のオンサイト固定化システムに関する検討:富山市にて降雪を採取し,融解した後,21種の元素を添加した試料を用い,各元素の分離濃縮を行った。その結果,元素捕捉におよぼすpHの影響においては,純水に元素を添加した場合とほぼ同等の結果が得られた。すなわち,酸性から中性にかけてアルカリ金属元素,アルカリ土類元素を捕捉せず,モリブデン,バナジウムを捕捉し,また弱酸性からアルカリ性にかけてカドミウム,コバルト,銅,鉄,ニッケル,鉛なども捕捉可能であった。このことから,降雪,降水などに含まれる共存成分の影響なく,これらの元素の分離濃縮に適用可能であると考えられた。また,試料水が固相抽出材を自然流下することが確認され,降水採取時に加圧,減圧などの駆動力なしに降水を固相抽出材に通液できる可能性があることが示唆された。なお,試料水に粒子態元素が存在する場合,固相抽出材上にろ紙を置くなどしてこれをろ別する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
降水中微量元素を濃縮・固定化する材として,高分子キレート剤を混合紡糸したキレート繊維を調製し,不織布化した,安価な固相抽出材を開発し,その調製法を最適化した。また,この固相抽出材が,降水中微量元素の分離濃縮に適用可能であることも明らかにした。以上より,研究の目的は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
開発した不織布型固相抽出材を用い,微量元素を降水採取時に濃縮・固定化できるシステムをデザインする。試料水に含まれる粒子態元素を分離するため,固相抽出材上にろ紙などを置く必要があるが,その材質,孔径などについて検討する必要がある。また,固相抽出材の元素捕捉能力をさらに高め,より高度な元素分離を達成するため,固相抽出材の積層化,混合紡糸法以外のキレート繊維調製法などについても検討していく。
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